宣戦布告は計画的に

「ってことでー、えーと…あれ?これなんの飲み会だっけ?まあいいや、取り敢えずかんぱーい」


いや全然よくねえよ。
「かんぱーい」と気の抜けた声を上げながら各々グラスを合わせたりとすっかり締まりのない空気の広間にて。
思いながら側にいた笹山とグラスをぶつけた。

それが、数十分前。


「原田、お前ちょっと飲みすぎじゃないか?」


俺の周りに転がる酒瓶に目を向けるなり心配そうな顔をして尋ねてくる店長に俺は「そうですかね」と並々とジョッキに次いだビールに口をつける。

口の中で弾ける泡沫。
ひんやりとした液体。
口いっぱいに広がる濃厚なアルコール臭。
やはり、これだ。

堪らない。

口の中で呟き、俺はぐいっとジョッキを傾け口の中に流し込む。


「いい飲みっぷりだね、かなたん」

「紀平さんこそ、飲み過ぎなんじゃないんですか。それ」

「俺酒に強いからさあ、つい飲み過ぎちゃうんだよね」


その紀平さんの一言にいつの日かの記憶が蘇る。
いつかバイト感覚で入ったホストクラブで、『俺酔わない質なんだよねぇ』とにやにや笑い自慢気に女の子口説いていた気に食わない先輩ホスト。
似ても似つかない記憶の中のそいつと紀平さんが目の前でダブり、なんとなくむっとした俺は「へえ」と低く呟いた。


「俺も酒強い方なんですよ」


気付いたら、挑発の言葉が出てた。
ああ、やばいな。結構酔ってるな、俺。
思うが、口は止まらない。


「そうなんだ」

「どっちが先に潰れるか飲み比べしませんか」

「やめとけ」


そう口を出してきたのは店長だった。
「お前、もう酔ってるだろ」と肩を掴み、引かせようとしてくる店長を振り払い俺は紀平さんに目を向ける。
紀平さんは楽しそうに笑った。


「いいよ、別に」


軽薄な声はいつもと変わらないもので。


「じゃあ、俺が勝ったら紀平さん土下座して俺の足舐めてください」


その声を態度を余裕を顔を崩したくてそう畳み掛けるように言えば、「ぶふッ」と四川がオレンジジュース噴き出していた。汚い。

mokuji
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