歓迎会という名の飲み会

「おい、一つ聞いて良いか」

「はい、どうぞ」

「俺は四川に原田だけを連れてくるように言ったはずだがなぜ貴様らがいる」

「なぜってそりゃあ、歓迎会するんなら皆でやった方がいいじゃん?」


場所は変わって店の近くにある飲み屋にて。
ヘラヘラと笑う紀平さんにコメカミをひくつかせた店長は「『じゃん?』じゃない、『じゃん?』じゃ」と声を上げ、そしてビシィッと紀平さんを指さす。


「特に紀平だ、貴様だ。どの面下げて原田を歓迎するつもりだこの野郎」


眉を寄せる店長に睨まれる紀平さんは困ったように肩を竦め、笑う。


「や、だってかなたんと店長を二人きりにさせるなんて可哀想だし」

「貴様に心配される筋合いはない!」


また始まった。

店長と紀平さんは仲がよくない。
というか店長が一方的に噛み付いているように見えるが。

座敷の個室。
知ってるやつに擦れ違ったくらいしかいないやつ、おまけに初対面の人間までが集まっていた。
全員、俺が店を出ようとして拉致される時点で出勤していたやつらのようだ。
各々わいわい騒いでる。
しかし、なんだ。
見事に女がいない。
なんだこのむさ苦しさは。


「あの、二人とも落ち着いてください。原田さんが縮こまってるじゃないですか」


壁の隅でローテンションになっている俺を気にしてくれる笹山はそれを理由に二人の仲裁に入る。
不服そうだったが、「ふん」と鼻を鳴らした店長は渋々紀平さんから顔を逸らす。
そして、今度その矛先を向けられたのは年が近い店員たちと騒いでいた四川だった。


「大体四川、貴様のせいだぞ。俺は誰にも言わずに原田だけを連れて来いと言ったはずだ。余計なもんまでゾロゾロ引き連れて来やがって」


余程余計な外野が着いてきたのが気にくわず、文句を言わなければ気が済まないようだ。
突っ掛かってくる店長に露骨に面倒くさそうな顔をする四川だったが、すぐに「じょーだん」と口許にはいつもの軽薄な笑みが浮かぶ。


「俺はちゃあんとこいつだけ引っ張って来たんすよ。店長が『お前のための歓迎会なんだから来てくれたっていいじゃないか!』とか騒ぐから皆ついてきたんだろ」

「ぐっ」


そして言いくるめられていた。
あまりにももっともな言い分に店長は言葉に詰まり、「そうか、俺のせいなのか」と凹んでいた。
なんだか気の毒になったが店長と二人きりは嫌なのでまあ他のやつらが来てくれたのは有り難い。
紀平さんと四川以外。

mokuji
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