要らぬ善意 こりゃまずい。 冗談抜きに。 「っ、ほんと、いいですからっ!一人で出来ますっ!」 再度うずき出すケツの痛みに顔を歪めながらそう店長の腕の中から死にもの狂いで脱け出そうとする俺。 「こら、暴れるな!危ないだろ!」と俺を掴まえてくる店長の顔面に肘鉄を食らわせつつ、なんとか隙をみて膝上から脱出することができたが…。 「……っ笹山、逃げないように捕まえておけ」 顔面を押さえ若干涙目になる店長は言いながらソファーから立ち上がる。 そして、笹山を盾にし隠れていた俺を睨んだ。 あ、やばい。ちょっと怖い。 「でも、店長…」 「原田のために薬を塗ると言っているだけだ。なにを躊躇っている?それともなんだ、笹山。お前は困っている怪我人を見捨てるような冷たいやつだったのか。ああ、俺は悲しいぞ。まさかお前がそんな冷たいやつだったとはな」 狼狽える笹山にそうつらつらとわざと罪悪感を煽るようなことを口にする店長。 こいつどんだけ小賢しいんだ。 「…笹山、俺は大丈夫だからな」 下心が見え透いた店長の言葉だが優しい笹山なら万が一口車に乗せられる可能性がある。 念のため、にじり寄ってくる店長から逃げるように後退する俺はそう笹山に声を掛けるが、悪い予感というのはよく当たるようだ。 「ってうわっ」 申し訳なさそうな顔をした笹山がこちらを振り返ったと思った矢先、そのまま腕を掴まれ正面から捕まえられた。 「笹山っ」 「すみません、原田さん。怪我が悪化して苦しむ原田さんは見たくないんです」 「そんな…っ」 端から見たら抱擁しているように見えるであろうが服を掴むその手は強く、離れない。 お前ほんといいやつだなと場違いながら感動するが、今、俺にとってその善意はただの厄介でしかなくて。 「流石物分かりがいいな、笹山。どこかの馬鹿とは大違いだ。あとで砂糖型媚薬を一セットをやろう」 恐らく今頃空き部屋に閉じ込められ自己処理に耽っているであろう店員のことを言う店長に笹山は「いりません」と即答した。 正しい判断だ。 しかしこの展開は間違っている。 |