大人げない人

「店長…っ」


なんかよく知らんがとにかく諸悪の根元はこいつだったわけだ。
近付いてくる店長をにらみ、身構える俺の側。
「あの、紀平さんは」と心配そうな顔をして尋ねる笹山にどこかむっとした店長は「オナホとエロ本押し付けて部屋に隔離してきた」とぶっきらぼうに答える。
なんという猛獣扱い。


「効きすぎるというのも厄介だな。くそ、あの野郎一度ならぬ二度までも原田に手を出しやがって…っ」

「店長がそんな実験するからでしょう」

「ぐ…っ。笹山、お前だけは俺の味方だと思っていたんだがな」


正論を口にする笹山に苦悶の表情を浮かべ眉間を擦る店長。
唇を尖らせた笹山は「敵とか味方の問題じゃないです」と即答した。
こいつがこの場にいてよかったとつくづく思う。
この店の唯一の良心とも言おうか。

ぷりぷりする笹山に少しばつが悪そうな顔をした店長は「まあそう怒るな」と笹山に目を向けた。


「笹山、お前も共犯だ」

「えっ」


こいつ笹山まで巻き込みやがった。
なんという大人げのなさだ。こうはなりたくない。


「おい原田、こっちに来い」


なんて思ってると不意に名前を呼ばれる。

やばい、顔に出てたかと冷や汗を滲ませつつソファーに一歩、また一歩と近付いてくる店長から後ずさった俺は「…なんですか」と身構えた。
そんな俺を見て店長はふっと口許に笑みを浮かべる。


「そう警戒するな。俺はただお前の体を心配しているだけだ」


先ほどまでとは違って優しい声音で続ける店長は俺と向かい合うように立つ。
上目に店長を睨めば視線は絡み合い、店長は微笑んだ。

そして、


「脱げ」


いつもの高慢な態度からは想像つかないような惚れ惚れする笑顔のまま店長は俺に命ずる。
もしかしたらと店長の口から労りの言葉が出るのを期待していた俺が馬鹿だった。

mokuji
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