intense

駅前の通りから人気のない路地裏に入ったところにある寂れたビルの横に設置された目立たない階段。
地下へと続くその階段を降りていけば店に着く、というのが例の求人サイトに記載していた情報だった。
地下へと続く狭い通路の中、明かりはというと足元を照らす薄暗い間接照明のみで段差に足を取られないよう気をつけているとあっという間に行き止まりになってしまう。
可笑しいな。
なんて思いながら壁をよく見ればそこには『OPEN』と書かれた看板がかかっていて、その側にはドアノブも取り付けられている。
どうやら壁と思っていたそれは扉だった。
やけにこう、ややこしいつくりをしている。
しかしそこが未知への空間へ足を踏み入れるという緊張感や興奮を高めてくれるというかまあなんかとにかく俺はテンション上がっていた。
そしてゴクリと固唾を飲んだ俺はドアノブに手をかけ、そのまま扉を押す。

ゆっくりと開く扉からは店内の明かりが漏れ、その眩しさに俺は目を細めた。


「うおお…!」


そして、感嘆を洩らす。

黒とショッキングピンクの市松模様の床にコンクリートが剥き出しになったような天井。
広い空間に余裕を持って並べられた商品棚にはライトな雑貨から際どい商品まで用途別に揃えてあり、その店内はカップルや中年の男、まだ若いであろう女性までと様々な客層で賑わっている。

アダルトショップ『intense』。
それが今回俺が面接しにやってきた店の名前だ。


「いらっしゃいませ」


それにしても目に優しくない店だな、なんて思いながら店内をきょろきょろ見渡しているとレジにいた店員が声をかけてくる。
何気なくそちらに目を向け、また驚いた。
肩に垂らしたような長め黒い髪に赤いエクステを疎らに散りばめさせたその青年はこれまたなかなかの美青年で、しかもでかい。身長が。
シンプルなエプロンの右胸には『笹山』と書かれたネームプレート。
なんとなく笹山とかいう店員に圧倒されつつも、よくみると柔和で毒気のない相手にほっと安心した俺は丁度よかったので面接のことを聞いてみることにする。


「あの、さっき電話で面接お願いした者なんですが…」


そう、レジに近付き恐る恐る笹山に尋ねたときだった。


「面接っ?!」


俺の口から出た言葉に驚いたように目を見開く笹山に思わず「えっ」と戸惑う俺。めっちゃびびった。
あまりの豹変ぶりになにか変なこといってしまったのだろうかとなんだかドキドキして変な汗かき始める俺に気付いたようだ。
はっとし、気恥ずかしそうな顔をした笹山はごほんと咳払いをし、そして気を取り直すように笑みを浮かべてこちらを見る。


「あ、す…すみません。バイト面接の方ですね。こっち着いてきて下さい」


そう言って、笹山はカウンター奥に設置された関係者以外立ち入り禁止と書かれたプレートがぶら下がった扉を開き、俺を招き入れた。

mokuji
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