貞操の危機、再び。

まさか、なんで、店長が。
状況が状況なだけにかなり焦る俺だがよく考えてみなくても同じ職場なのだからいつどこでやつが現れようがそれはごく当たり前のことで。
むしろ、当たり前じゃないのは紀平さんの行動だろう。


「紀平さ、店長が……っんんっ」


そう慌てて紀平さんを止めようとした矢先のことだった。
伸びてきた大きな手に無理矢理口を塞がれる。


「っん、んん……っ」

「あー…見つかっちゃったら面倒だなぁ」


そう独り言のように呟く紀平さんは息苦しくなり呻く俺の顔を覗き込めばにこりと笑い、「しー」と人指し指を唇に添えた。
騙されてしまいそうになるくらい無邪気で人懐っこい笑顔。
もちろん、顔だけだ。


「まあ、かなたんが人前で犯される方が好きっていうなら好きなだけ声出していいけど」


涼しい顔をして脅迫めいたことを口にする紀平さんは言いながら助けを求めようと口を開く俺の咥内に指を捩じ込み、奥へ逃げようとしていた舌を引っ張る。
静かにしろという無言の脅し。


「っふ、ぐぅ……っ」


他人の指に咥内を荒らされ、あまりの息苦しさに涙を滲ませた俺はふるふると首を横に振り、そんなつもりはないと紀平さんに意思表示をする。


「そ、いい子だね」


そして、満足そうに微笑んだ紀平さんは俺の口から指を抜いた。
そう、ようやく息苦しさがなくなり安心した矢先のことだ。
唾液に濡れた紀平さんの手はそのまま俺のエプロンの下へと潜り込み、ベルトのバックルを掴む。


「っや、ちょ、待ってください」


そのままガチャガチャとズボンのウエストを弛めようとしてくる紀平さんに青ざめ、慌てて止めれば不思議そうな顔をした紀平さんは小首傾げながら「なに?」と聞き返してくる。

女の子がしたら癒される動作がこの人がすると恐ろしくて堪らない。
いや、問題はそこではない。


「なんで、脱がし…っ」

「だって脱がさなきゃ入んないじゃん」

「は……っ?」


入るって、なにが。

嫌な予感に一瞬思考が停止し、硬直したときだった。
ずるりと音を立て穿いていたズボンを下着もろともずり下ろされる。
一気に涼しくなる下腹部にぎょっとした俺は「ぎゃぁっ」とか「うひょうっ」とかなんか取り敢えず変な声上げながら慌ててズボンを穿こうとするが、遅かった。


「ははっ、すげえ声。もうちょっと色気ある声出しなよ」


「まあ、それもそれでかわいいけど」とくすくすと笑う紀平さんは慌てて足首に落ちたズボンを拾おうとする俺の手首を掴み、微笑んだ。

全身から血の気が引く。

mokuji
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