悩殺・骨抜き・腰砕け

頭が可笑しくなる。
冗談抜きに。

ずるずると耳の中を這う舌先。
吹きかかる吐息は直接鼓膜を融かし、脳味噌がどろどろに蕩けそうになった。


「っは、ぅあ……っやだ、紀平さん、ほんと…誰か来たら……っ」


ぴちゃぴちゃと濡れた音が聴覚を支配する。
感じたこともないような体内を探られるような不快な快感に全身は泡立ち、胸をまさぐる紀平さんの腕に爪を立て必死の抵抗をした。
それが効果があったのかはわからないが、紀平さんは耳から舌を抜きそのままじゅるりと唾液を啜る。
そしてそのまま耳の裏に優しく口付け、小さく笑った。


「それってさあ、誰も来なかったら最後までヤっちゃっていいってこと?」

「ぇっ?あ、ちが、違います、違いますよっ!…や、やらないで下さい……っ」

「うーん、どうしよっかなぁ」


いいながらこちらの様子を楽しむように紀平さんはいたずらに両胸の突起をなぞり、こりこりと転がす。
その乱暴な指使いはいまの俺には刺激が強く、腰が震えた。


「っぁ…っや、だめですっ、やめてください……っ」

「まあ、普通に考えたらそんな可愛い反応されて無視するわけにはいかないよね。男として」


無視してください人間として。

懇願する俺に構わず指の腹でくにくにと突起を潰して遊ぶ紀平さんになんだか泣きそうになる。
脳髄から脊髄まで全身が溶けたような熱を持ち、ずるりと腰抜けしそうになれば紀平さんの腕に抱き抱えられ再度胸をいじられ、強弱つけてやってくる快感の波になにも考えられなくなった。


「ふ、んぅ…っ」


やばい、なんか、背中がぞくぞくする。

どっかが麻痺したように一種の心地よさすら感じてきてああそろそろ俺末期かなと思い始めた矢先だった。
不意に、AVコーナーを囲う暗幕の向こう側から慌ただしい足音が聞こえてくる。

そして、


『おい、紀平見なかったか』

「…っ!」


店長だ。
すぐ近くで店長の声がした。

mokuji
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