脅迫と誘惑のその違い 「紀平さ、なに言って……」 「なに?」 下腹部をまさぐられ、ウエストを弛められそうになってそこでようやくこれは不味いと思った俺は咄嗟に腰を引く。 しかし、背後に立つ紀平さんに尻を突き出すような形になってしまい慌てて離れようとするが腰を捕まえられ、そのまま背後から抱きすくめられた。 同時に、ぬるりとした舌の感触が首筋を這う。 舌だ。 生暖かい肉厚とその中央に埋め込まれた金属が無造作に伸びた後ろ髪を掻き分け、その妙な感覚に俺は目を見開き身動ぐ。 「やっ、やめて下さい……っ」 「じゃあ言っちゃっていいの?かなたんが仕事中AV売り場でオナってましたって」 「いいの?」と確認するように耳元で囁かれ、俺はその言葉に硬直した。 ただでさえこの店に来てよくないことばかり起きている今、なるべく波風立てたくないのが本音だった。 わざわざセクハラまでされて受かったバイトだ。 居づらくなるようなことはしたくなかった。 だけど、だけど、こんなことってどうなんだ。 「……っ」 顔が熱い。 緊張した喉は言葉を発することが出来ず、代わりに俺はふるふると首を横に振って拒否をした。 耳元で紀平さんが小さく笑う気配がする。 「なら、黙ってなよ。別に痛いことするわけじゃないんだからさ」 軽薄な紀平さんの声。 俺にとって手痛いことにはかわりない。 主に、メンタル面に。 |