高額な口止め料

「きっ、ききき、紀平さ…」


全身から血の気が引き、顔を青くすれば背後に立つ紀平さんは俺の手からAVを取り上げた。


「えー、なになに?新人ガイド姦行バスツアー……へえ、かなたんって制服もの好きなんだ?」


浮かべるのは爽やかな笑み。
しかし、状況が状況だからか今はただ真意の読めないその笑顔が恐ろしくて堪らなくて、これはやばいと青ざめた俺は然り気無く勃起した股間を押さえ付けて隠す。


「ごっ、ごめんなさい、つい、魔が差して……っ」

「なんか万引き犯みたいな言い訳だね」


自分でもそう思う。
笑いながらDVDを棚に仕舞う紀平さん。
紀平さんに背中を向けたまま俯く俺の視界の隅にその手が映った。


「でも商品で抜いちゃダメでしょ。一応売りもんだからさぁ」


やっぱり、バレていたようだ。
相変わらず軽薄な声にびくっと反応した俺はつい股をきつく閉める。
店内に流れる煩くない程度の音量のBGMが遠く感じるのはここが隔離されているからだろうか。
すぐ耳元で紀平さんの声がして相手の存在を近くに感じれば、余計心臓が張り裂けそうになり変な汗が滲む。


「す……すみません」


「いいよ、別に」


返ってきたのはいつもと変わらないどこか淡々とした声。
まさかそんな反応がくるとは思わずつい「え?」と背後を振り返る俺。
目があって、紀平さんはにこりと微笑んだ。


「店長たちには黙っといてやるよ」

「っ、良いんですか?」

「うん」


頷く紀平さんに心の底から安堵しかけた矢先だった。
伸びてきた紀平さんの手はエプロンの下の俺の下腹部を抱き寄せるように掴まれる。


「その代わり、共犯ってことで」


何事かと目を見開いたとき、背後から抱きすくめられるように密着した紀平さんに耳元で「ね?」と囁かれ、背筋にぞくりと嫌なものが走った。
それが恐怖心か、はたまた別のなにかなのか今の俺からはなんの見当も付かなかった。

mokuji
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