一時退避は基本です

「ごちそうさん」


言いながら皿を下げれば、台所で調理をしていた笹山は「お粗末様でした」と微笑んだ。
どっからどう見ても主夫である。
こいつ料理屋とかに行けばよかったのになんでこの店で働いてるのだろうか。


「結構美味しかった。まじで」

「よかったです」


料理に集中しているのだろう。手元に目を向けたまま笹山は嬉しそうに破顔した。
笹山が女で俺よりもちっさくて巨乳だったらまさに理想の女の子だったのになぜこうも世の中というものは俺に辛辣なのだろうか。あれか、日頃の行いか。


「よかったなー笹山餌付け大成功じゃん」


いるかいないかもわからない神に対し悔やんでいると、ふと暇そうにしていた四川がやってきて台所に立つ笹山に絡む。
餌付けという言葉にむっとする俺に気付いたようだ。
背後の四川に呆れた目を向ける笹山は焦ったような口調で「失礼なこと言うなって、おい」と声を上げた。
他人事のように笑う四川を睨めば、目が合い、四川はにやにやと笑う。
くそ、年下だと思ったらさらにムカムカしてきたぞ。
しかし必死に宥めようとしてくる笹山の手前大人な俺は「てめー四川この野郎」と殴りかかるような野蛮な真似はせず、何事もなかったかのようにこう、颯爽と休憩室を立ち去ることにする。
いや、断じて逃げるわけではない。


「あっ、原田さん…」

「俺の飯先に作れよ」

「……っあー、もう」

mokuji
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