○○を食らわば皿まで

「あれ、店長もう行っちゃったんですか?」

「みたいだな」


目を離した隙にいなくなった店長に寂しそうな顔をした笹山は手持ちぶさになり、店長に食べさせる予定だったはずの手の付けられていないケーキを片付けようとする。
あまりにも居たたまれないその後ろ姿になんだかもう俺はいてもたってもいられなくなり、「なあ」と思いきって声をかけた。


「それ、俺が貰っていいかな」

「原田さんが?いいんですか?」


驚いたような顔をして振り返る笹山。
相変わらずの腰の低さに調子狂わせられつつ視線を泳がした俺は「小腹が空いてきたんだよ」と小さく呟いた。
もう少し気の利いた言い方があっただろうになんとなくぶっきらぼうになってしまう自分が嫌になる。
しかし、笹山にはそれで十分だったようだ。

ぱあっと顔をあかるくし、嬉しそうに頬を綻ばせた笹山は「じゃあ、どうぞ」と俺の前にケーキ皿を置く。


「お口に合うかわかりませんが」


柔らかく微笑む笹山はそうやはりどこか謙遜した口調で続ける。

mokuji
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