セカンドキスは蜂蜜の味

「紀平、大体お前はなんなんだ飯を食いに来てるのか?旨そうだな、ちょっと俺にも寄越せ」


おお、わりとまともな突っ込みと思いきやお前も食うのかよ。
嫌ですよと言いたげな顔をしてケーキを庇う紀平さんとなんだよいいだろケチと唇を尖らせる店長というなんとも低レベルなやり取りに見てられないと痺れを切らした笹山は冷や汗を滲ませながら二人の仲裁に入る。


「店長、こっちに余りがありますので」


そう言って台所からケーキを乗せた皿を運んでくる笹山に相変わらずの仏頂面のまま「あぁ、悪いな」とだけ続ける店長は俺の向かい側の席に腰をかける。

ってお前も混ざるのかよ。

あまりにもナチュラルに混ざってくる店長に内心突っ込みを入れたとき、呆れた俺の視線をなにかよからぬものと受け取ったようだ。
フォークとナイフを遣い無駄に上品にケーキを一口サイズに切り揃えていた店長はふとこちらに目を向け、にやりと嫌な笑みを浮かべる。


「どうした原田。お前も食いたいのか?なんなら俺があーんしてやろうか。ほら、その可愛い口を開け。捩じ込んでやる」

「遠慮します」

「原田さんは甘いものは嫌いなんですか?」


そう丁重にお断りすればどこかしょんぼりとした笹山が恐る恐る尋ねてくる。
やばい。つい店長相手だから突っぱねてしまったがよく考えてみれば作ったのは笹山だ。
傷付けてしまったのだろうか。
あまりにも不安げにこちらを伺う笹山に罪悪感で胸を締め付ける俺は内心テンパりつつ「や、別に嫌いじゃないけどさ……」となんとも歯切れの悪い返事を返してしまう。
うう、うまいことを言えない自分の口が憎たらしい。

そんな俺たちのやり取りを眺めていた紀平さんだったが、なにか思い付いたようだ。


「じゃあ俺のあげるよ」


言って、蜂蜜にまみれたそれを口に運ぶ紀平さん。
その言葉の意味がわからず、「へ?」とアホみたいな顔をして隣に腰をかける紀平さんを振り返ったときだった。

紀平さんが小さく腰を持ち上げ椅子の背凭れに手を回したかと思いきや、次の瞬間そのまま紀平さんの顔が近付いてくる。
反応する暇もなかった。
自然な動作で近付いた紀平さんはそのまま薄く開いた俺の唇に口付けをし、その隙間から一切れのケーキを捩じ込んだ。
口いっぱいに広がるのはクリームと蜂蜜の噎せ返るほどの甘ったるい味。

口移し。

そんな単語が脳裏を過った。


「蜂蜜ついてるよ、かなたん」


俺にケーキを食べさせた紀平さんはそのまま小さく唇を離したと思えば、そう言って唖然とする俺の唇を舐めとる。
紀平さんの舌についた金属の球体が唇に触れ、そこでようやく俺は自分がなにをされているのか気付いた。

mokuji
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