店長でもフォロー出来ないもの

「…ごめん、俺も言い過ぎた、かも…」


「でも、ちゃんとするから。これから。……遅いかもしれねえけど、頑張る。だから心配しないで」と、できる限りの本心を言葉にすれば、切なそうに兄の顔が歪む。


「佳那汰…っ」


そして、抱き締められた。
きつく、肩に回された腕に力がこもりくっついた体は離れなくて。
若干息苦しさもあったが、それ以上にこう、外野の目が痛いというかなんで翔太お前が泣いてるんだよ。「あんなに人間の底辺だったカナちゃんがこんなに立派になるなんて」ってうるせえよてめえあとで覚えてろよ。


「お兄ちゃん、も…」


わかったから、ともぞ痒さというか気恥ずかしさに耐えられなくなった俺は兄の胸をぽんぽんと軽く叩く。
だけど、それでも離れようとしない兄。
とうしたものかと困惑したとき、ふと伸びてきた兄の手に両頬を挟まれた。


「……お前、大きくなったな。少し前まであんなに小さかったのに」


顔を確かめるかのように軽く上を向かされれば、すぐ目の前には兄の顔があって。
そこには、どこか寂しそうで、だけど柔らかい兄の目がこちらをじっと見据えていた。


「一度も、俺の後ろから離れようとしなかったのにな」


ああ、そういえば、兄はこんな顔をしていた。
物心ついたときから怒られた記憶ばかりが印象に残っていたが、今思い返してみると、俺はたまに見える兄の優しい顔が見たくて、ずっとあとをついて回っていた。
どうしたら兄が喜んでくれるか、そればかりを考えて色々なことに挑戦して、それに失敗する度に怒られて……。
今更だと思うのに、三年間、封印していた記憶がどっと溢れ出して、俺が勝手にいなくなったときからあの心配性の兄がどんな思いで今まで過ごしてきたかとかを考えたらなんだか酷く申し訳なさやらなんやらが込み上げてくる。けどよく考えたらこいつ翔太に見張り頼んでたわけだよなと思ったら滲んだ涙は引っ込んだ。
だけど、それでも兄に対しての思いは少し、変わった。
滅多に自分の本心を口にしようとしない兄の本音を聞くことによって、兄のことが少しだけわかった気がして、嬉しかった。


「お兄ちゃ……」


「おい、そろそろ空気を読んで退出するぞ」

「うーっす」

「せっかくいいところですのに」

「馬鹿、このまま熱い接吻交わされたらどうする!ぎくしゃくするだろ!」

「交わさねえよ!!」


というかまたかよ!気遣いは有り難いけどせめて俺のセリフを遮るなよ!雰囲気台無しってレベルじゃねーぞ!

mokuji
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