次男のターン、形勢逆転

「いや、お兄ちゃん…」

「俺が居ない間寂しいというならペットを飼えばいい。お前、犬が飼いたいと言っていただろう。…ああ、それならペットを飼ってもいい場所を選ばないとならないとな」

「いや、あの…だから……」

「丁度知り合いがいいマンションがあるといっていたな。見晴らしもよくて設備も万全。こうとなったら早速電話して話を…」


「だから、待てって言ってんだろうが!」


あまりにも人の話を聞こうとしない兄に、ぷつりと頭のどっかがブチ切れる音がする。
突然声を上げる俺に何事かと目を張る兄、意外そうな顔をする部外者三名。
やつらの視線に構わず、立ち上がった俺は兄と向かい合う。


「佳那汰、お前なんて口の聞き方を…」


「聞き方だとか、そういうのはいいんだよ!つーかずっと俺のことはいいって言ってんだろ!

俺と住むマンションよりも先に、さっさと奥さんと一緒に住む家を探せよ!」


「「奥さん?!」」


俺の言葉にいち早く反応したのは、傍観を決め込んでいた店長と四川だった。
驚愕する二人とは対照的に、兄は奥さんという言葉に顔を引き攣らせる。


「な、なにを言ってるんだ佳那汰!彼女とはまだ籍を入れていない!」

「どっちにしろ婚約してんだろうが!どれだけ待たせるつもりなんだよ!!」


俺が家を出る三年前から、兄には婚約者がいた。
親の言いつけとはいえ、兄に対して一途で美人でしかも巨乳!巨乳の!文句のつけようのない乳…プロポーションの婚約者がいるというのに兄は一向に籍を上げる気配はないしおまけにこの始末だ。嫌がらせか。
兄も親から五月蝿く言われていて耳が痛い思いをしてきているのだろう、いつもの余裕はどこにいったのか「うぐぅ…」と唸る兄は苦悶の表情を浮かべるばかりで。


「大体お兄ちゃんが俺に構ってばっかりだからあの人、定期的に恨みの手紙送ってくんだよ!すげーこえーからやめさせろよ!そのせいで翔太の眼鏡割れたんだぞ!」


「知らないとは言わせないからな、ずっと監視してきたから知ってんだろ!」そう、名探偵さながらの直感推理で言い切れば、兄の顔色は更に悪くなる。
監視していることを指摘されたからではない。
兄は自分の婚約者のことになると途端に顔が引き攣るのだ。
まあ確かに気持ちはわからないでもない。確かに羨ましいくらいの乳だが、俺ならあんな俺の写真を顔に被せた藁人形に何本もの五寸釘を貫通させるような女を嫁にしたくない。したくないが、申し訳ないがこの兄にはあれくらいのあれのがあれなのだ。なんというかこう、似た者同士。目には目を。毒には毒を的な。


「か…佳那汰、大人には大人の事情というものがあってだな」


よしきた。痛いところを突かれ、すっかり調子を狂わされた兄はいつもの調子を取り戻すのに少しばかり時間が掛かる。
ここぞとばかりに俺は「なら、俺にも俺の事情があるんだよ」とすかさず反論を入れた。

そして、最終奥義。


「お兄ちゃんが結婚して家庭持つまで、俺はお兄ちゃんと縁を切る!」


そうずびしと兄に人差し指を突き立ててれば、ドーンと兄に衝撃が走った。ような気がする。
というか司、興味なくなったのはいいからせめてテレビはつけないでくれ。バラエティ番組のBGMは緊張感が欠けるから!せめてニュースで!

mokuji
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