長男の仕事

「っ、そ、それは…」


なにか言え。
必死に頭を動かし適当な言い訳を探してみるがどれも兄を納得させるようなものはなくて。
それどころか、


「あんたんとこの使用人、躾が行き渡っていねえみたいだな。仕えている家の人間を縛り上げて、寄って集ってそりゃ楽しそうだったな」

「おい、馬鹿、四川っ!」


わざと兄を挑発するかのようなことを言い出す四川。
絶対怒られる。それどころか、怒りが四川に向くことだってあるかもしれない。
兄の反応が怖くてつい目を逸しそうになったが、兄の反応は想像とは違った。


「…なんだと?うちの使用人が佳那汰に手を出すはずが…」


疑うような兄の言葉には驚いた。
なによりいつもの兄なら根拠のない自信を理由にばっさり切り捨てるはずだからだ。
その言葉も途中で途切れ、どこか勘繰るような兄の視線は部屋にいたとある人物に注がれる。


「おい波瑠香、どこへ行く」


兄の声に、別の襖から部屋を後にしようとしていたハルカがびくりと反応した。
そして、青褪めたハルカはわざとらしく腹部を擦る。


「い、いえ、その私、急にお腹の調子が……」

「俺の許可も取らずにどこへ行くと言っているんだ」


僅かに刺を孕んだ兄の声に、ハルカは観念したようだ。
小さい頃から兄に怒られて躾けられていたハルカにとって兄の低い声は恐怖に近いようだ。
目を潤ませたハルカは低く唸る。


「ぅ、うぅ…お兄様、そんな怖い顔…」

「波瑠香、お前は今日一日ここにいたんだろう。少し、詳しい話を聞かせて貰おうか」


残念だったな、ハルカ。うちの兄には泣き落としは通用しない。
そもそも、ハルカの様子からなにかを悟った兄はハルカを見逃す気はさらさらないようで。


「こっちに来い」


そう、顎をしゃくって短く命じる兄に、ハルカは今度こそ小さくなる。
はっはーん!ざまあみろ!お前が調子に乗るからそうなるんだよ!自業自得だバーカ!しっかり怒られてこい!と言いたいのを堪え、ハルカに目を向ければ親の仇でも見るかのような恐ろしい目をしたハルカと視線がぶつかりちびりそうになった。

mokuji
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