降臨 (原田佳那汰視点) どうしようとかやべえとか、そんなことよりも先に『俺の格好やばくね?』という感想が頭を過る。そうだよ今更だよ。 「いや、これはその、深い事情があって…つーかなんで店長がいるんすか!司も!」 「そんなことはどうでもいい、お前、なんて格好を…!その男はなんだ!地下牢に閉じ込めておけと言っていたはずだろう!」 即座に突っ込んでくる兄の口から出たその言葉を、俺は聞き逃さなかった。 「やっぱりこいつ連れてきたのお兄ちゃんの仕業かよ…っ!誘拐みたいな真似はやめろっていつも言ってんじゃん!」 四川の話を聞いていた時から嫌な予感はしていたのだ。 元々兄は消したい人間を捕まえて人知れず地下に閉じ込めようとする悪癖があり、俺がそれを知り止めたとき、一時はやめていたのだがどうやらやはりそれは俺の目の届かない場所で今も続いていたようだ。 そんな兄を幼い時から見ていたハルカが堂々と拾ってきた人間を家畜扱いするのも兄のせいと言っても過言ではないはずだ。 なのに、兄は悪びれるどころか目の色を変えた。 「佳那汰、お兄ちゃんに向かってなんだその口の聞き方は!」 そこかよ!そこじゃねえだろ! 目の付ける場所がずれている兄に頭が痛くなってきた時だ。 妙な気迫に気圧され、後退りをすれば、手首を掴み上げられる。 先程まで縛られ、擦り剥いたそこに痛みが走り、僅かに顔が引き攣った。 「っ…い…ッ」 「い?」 呻く俺に片眉を吊り上げた兄。 あ、やばい。 そう思った時には遅かった。 その視線は俺の手首に向けられ、手首周りに出来た赤い線に兄の目が見開かれる。 「……佳那汰、なんだこの傷は。朝はなかったはずだ」 低く、地を這うようなその声に、俺だけではなく周囲にいた使用人は勿論ハルカも青褪める。 当の俺はというと蒼白通り越して顔面土色になっているはずだろう。 |