修羅場だよ!全員集合!

「っごほ、っせんぱ……っ」


なんということだ。よりによってこのタイミングか……って塩辛い!地味な嫌がらせしやがってこの男め…!俺の自慢の喉を痛めようとは小癪な!

色々言いたいけど口の中がジャリジャリして喋れない。そんな俺の前、先輩の前に出たのは原田妹だった。


「お兄様っ、井上様は悪くありません!私が引き止めていて、それで…」


慌ててフォローする原田妹を一瞥した先輩だったが、すぐにその傍にいた使用人たちに視線を向けた。


「私がいない時は来訪客を家に上げるなと伝えておいたはずですが、どういうことですか」

「も、申し訳ございません、ミナト様…」

「貴方達には一から教育をし直す必要がありそうですね」


細められた目に、若い使用人たちは青褪める。
ご愁傷様と心の中で呟いた。
しかし、俺も他人ごとではないだけに笑えない。


「それより波瑠香、佳那汰がいなくなったとはどういうことだ」

「そ、それは…その…申し訳ございません、止めたのですがあのグズ、私の言葉も聞かずに…」

「佳那汰が逃げ出すことはわかっていただろう、なぜその時点で眠らせない」

「申し訳ございません…っ私の失態ですわ…!」

「…話の続きは後だ。先に佳那汰を探し出せ」


「ただし、傷は付けるなよ。佳那汰に跡を残していいのは俺だけだ」とてもではないが兄妹がする会話とは思えない。というかこの女さり気なく毒吐きやがったぞ。
原田家の血は恐ろしい。


『店長、本当に原田さんのお兄さんなんですか』


無表情ながらもやたら殺伐した兄妹が気になったようだ。小声のつもりだろうがしっかり聞こえるボリュームで聞いてくる司に、俺は『残念ながらな』と頷き返す。

それにしてもどうしたものだろうか。
二人の話を聞くからに原田佳那汰が逃走を測ったようだが、あいつもよくやる。この人の敵に回るような真似をわざわざするとは。
しかしまあ、それでこそ俺が見込んだ奴なだけはある。


「なんだか廊下が騒がしいですね」


と、そんなときだ。
ざわつき始めた屋敷内。
ばたばたと複数の足音がこちらへと近付いてくるのが気付いてくる。
こんなつるつるに磨かれた廊下を走り回るような真似をするやつなんて、俺の記憶には一人しかいない。


「なにを騒いで…」
 

騒がしい声にコメカミを引くつかせた先輩がそう襖に近付いたときだった。

スパーンと音を立て、勢いよく襖が開かれる。

そして、そこには想像していた通りの光景が広がっていて。


「おい、ハルカてめぇ……っひぃ!!」


なぜか大きなワイシャツ一枚の原田佳那汰は、実の兄である先輩の姿を見るなり萎縮する。
勿論、いきなりの闖入に驚いたのは原田佳那汰本人だけではない。


「佳那汰?!」

「カナ兄?!」


絶句する兄妹の表情は次の瞬間凍りついた。
原田佳那汰のその後ろ、のそりと現れた長身のそいつは何故か上半身裸で。
予想外の人物の登場に、兄妹同様俺は目を見開いた。


「四川、なんで貴様までここにいるんだ…っ!」

「それ、こっちのセリフだっての」

mokuji
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