素直になれない人たち


(原田佳那汰視点)


「っああ!くそ、腕いてぇ!」


そう声を上げ、四川は抱えていた俺を床に転がした。
勿論受け身を取る暇もなく落下した俺は「ぐえっ」と潰れたカエルさながらの悲鳴を上げる。

使用人たちから逃げ出すこと数分。
どっかの空き部屋を見つけたのが数秒前で、これ幸いと人を転がしやがったのが今。


「ってめえ、せめて優しくおけよ!」

「うるせえな!運んでやっただけでも感謝しろ!この愚図が!」


確かに、本当に助けてもらえるとは思ってもなかったし、有難いのだが、そんな風に言われると意地でもお礼を言いたくなくなる。


「なんだよ、じゃあほっとけばいいだろ…!大体っ、別に助けろなんて言ってねえし!」

「はあ?誰が助けただって?」

「……え?だって」

「ハッ!自惚れんじゃねえよ。目の前にオナホにしかなんねえようなイカくせえ粗大ゴミがあったから拾ってきてやっただけだ、別に助けてねえから」


大概、俺もアマノジャクな方だがこいつの場合はずば抜けている。
そういうやつだとはわかっていることなのだが、どうやら先程の出来事のお陰で少なからず弱くなっていた俺のメンタルに四川の暴言は刺激が強すぎるようで。
視界がぐにゃりと歪んだと思えば、次の瞬間馬鹿みたいな量の涙がぼろぼろと溢れ出した。


「おい、なに泣いてんだよ」

「……っんだよ、泣き顔好きなんだろ…っ!喜べよ、…っ、人が、泣いてやってんだからぁ…っ!」


堪える元気も残っていない俺は、まだ痺れの残った両手で濡れる目元を擦った。
嗚咽を漏らし、泣きじゃくる俺にばつが悪そうな顔をした四川は舌打ちをする。


「っし、舌打ちすんなよっ!なんだよ、お前、なんでイライラして……」


そう言いかけたとき、視界が暗くなった。
ふわりとシトラス系の爽やかな香りが鼻腔を擽り、それが四川のものだと気付いたとき。
唇に、柔らかい感触が触れる。
目を見開けば、すぐ側にあった四川と目があった。


「……ほら、これでいいだろ」

「…四川」


ゆっくりと離れる唇。
触れるだけの優しいキスに、俺は昂ぶっていた胸が僅かに落ち着くのを感じた。


「四川…お前、結構少女漫画とか好きだろ」

「うるせえ!可愛くねえやつだな本当!」



mokuji
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