王子様という名の肉体労働

一瞬、見間違いかと思った。
いきなり視界に光が入ったせいで、なんか錯覚でも起こしてんのかと。
でも、その錯覚はいつまで経っても消えなくて。


「し、せん……?」


呆然と、ここにいるはずのない、目の前の男を見上げた俺はぽつりとその名前を呟いた。
すると、それに反応するかのようにゆっくりとこちらに視線を向けたそいつは、僅かに口元を緩め、そして。


「はあ?誰だそれ、便器が喋んじゃねえよ」


先程までの笑みはどこへいったのか、一変し、まるで人を小馬鹿にするかのように顔を歪めたやつは吐き捨てる。

いやこの人を見下げた態度は間違いなく四川だ。しかもこの顔。すげー腹立つ。ってか便器ってなんだよ!喧嘩売ってんのかよこいつ!少しでも助けてくれたのかと舞い上がりかけた数秒前の俺のときめきを返せよこの。
とか思ってると、いきなり腿を掴まれ、膝を折るようにして腰を上げさせられる。
瞬間、体制に押し出されるように中にたっぷりと注がれていた精液がどろりと溢れ出した。


「ぁっ、や、待って…ッ」

「ほいほいほいほい他人に中出させんなよ、相変わらず雑魚いやつだな」 

「やめろ、って、ば…っ」 


連続の挿入に緩くなったそこに問答無用で指を捩じ込まれる。
そのまま乱暴に中に残ったそれを掻き出され、周囲に響く濡れた音に恥ずかしさのあまり顔を隠したくなるが手は縛られたままだし……ってか、見てる。めっちゃ人居る。うそうそうそなにこの拷問。死んじゃう。


「やっ、すとっぷ、四川っ、やめろって!やだ…っ!」

「うるせえな。…あーあ、くそっ、きったねえな。どんだけ出されてんだよ、ノロマ」


だからなんで俺こんなに馬鹿にされてんの。いや自業自得っちゃ自業自得だけども。
だけど、それでも少しくらい優しくしてくれたっていいんじゃないのか。まあ、最初からコイツに優しさ、気遣い、真心を求めてはいないが。

腹の中、ぐるりと内壁に絡み付いた精液を拭い取りそのまま掻き出す四川は、そのまま白濁で汚れた指を近くにいた使用人に「ちょっと失礼」とか言いながら擦り付ける。失礼ってレベルじゃねえ。
でも、溜まったものを掻き出され、お腹は遥かに軽くなった。
起き上がろうともたついてると、肩を引っ張られ、そのまま腕の拘束も解かれた。


「あ…ありが」

「ちょ、ちょっと待った!」


とう。
そう、しどもろどろと言いかけたとき。
次々と自由を取り戻す俺を危惧したようだ。一人の使用人が声を上げる。
見れば、使用人たちは面白くなさそうにこちらを取り囲んでいた。
その視線の先には、当たり前のように四川がいるわけで。


「お前、誰だよ?」

「はぁあ?何言ってんすか、もー。俺のこと忘れちゃったんすか」

「いや、忘れるも何も、お前みたいなやついないだろ!」

「新入りでーす」

「嘘つけ!お前はハルカ様の好みとは正反対だ!」


流石使用人ともいうべきか、確かに好みの異性ばかりを使用人に雇っているハルカは四川みたいなこうどちかというと男臭いやつは寧ろ嫌いだった。
線が細く、どっかの人形みたいな美形の男。
それがハルカの好みだ。


「…………」


ざわつき始める周囲。
疑念の視線を向けられた四川はなにを考えているのか、僅かに黙り込み、そして、小さく息を吐いた。


「………あーあ、せっかく大人しく帰ってやろうかと思ったのに」


そう、小さく呟く四川。
使用人たちが、「あ?」と目を細めたとき。
四川は俺の腕を引っ張った。
そして、そのまま目の前の使用人を薙ぎ払うようにぶん殴り、強引に人垣の間を駆けていく。


「ちょっ、し、四川!」

「うるせえ!また地下行きは嫌なんだよ!」

「待って!俺、走れない!」

「あぁ?!」


また一人、慌てて捕まえようとしてくる使用人の顔面に容赦ない一発を叩き込んだ四川は、足を縺れさせるように走る俺を睨む。
その剣幕に、なんだよ、そんなに怒んなよ、と怖気づいたとき。
やつが俺に手を伸ばしたかと思えば、次の瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。


「え」

「あ」


周りの使用人たちと、俺の声が重なる。
視界が揺れ、安定したとき。目の前の使用人たちがあんぐりと口を開き、こちらを見ていた。


「し、四川、これって」

「うるせえっ、喋んな…!」


お姫様だっこ?と恐る恐る問いかけようとした言葉は「重たいんだよ、豚」と吐き捨てる四川に掻き消される。

mokuji
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