安易に挑発に乗るべからず 前からよく、俺がなにか問題を起こす度に翔太に『カナちゃんはもっとカルシウム摂るべきだよ』と怒られていたが自分ではそこまで短気だとも喧嘩っ早い熱血野郎とも思ったことはなかったが、今、俺がその類ということがわかった。 妹の性格の悪さもよく知っている俺だが、赤の他人に馬鹿にされると自分まで馬鹿にされたようで酷く頭にくるわけで。 「あいつが性格ブスなのは知ってんだよ!こそこそ言う暇あるなら本人に言ってやれっ!」 セフレ発言した使用人を思いっきり殴りつければ、もろ拳を食らった使用人は尻餅をつき、「っぐっ!」と呻き声を漏らした。 いきなり殴りかかる俺に目を丸くした他の使用人たち。 俺自身が自分の行動に一番驚いているわけだが、頭とは裏腹に開いた口は止まらなくて。 「そんな勇気もねえくせに、あんな世間も知らねえブスに色目使ってんじゃねえよバーカバーカバァーカ!」 同僚をヤラれ、「この野郎…ッ!」と殴りかかろうとしてくる使用人に殴られるよりも先に蹴りを食らわせる。 それを切っ掛けに次々と殴り掛かってくる連中を殴り、殴られ、文字にするなら乱闘騒ぎ。 素面のときに喧嘩するのは久し振りだ。 だからだろう、一度頭に登った血はそっとやそっとじゃ収まらなくて。 「家出してたくせに今更おにいちゃん面かよッ!」 「残念ながらおにいちゃんなんだよっ!俺も!あんなドブスと血が繋がってるんだよ!」 興奮しているせいか、殴られた体に痛みはない。 今、自分が複数人を相手にしているという事実は結構あれだ、なんかこう更に気分が盛り上がってくるわけで周りが見えなくなってくる。 だからだろう。 気分が最高潮まで昂った俺は、相当ちょっと頭のネジが弛んでいたみたいで。 「俺の妹に文句があるやつは俺に言え!まとめて相手してやる!」 なんてこと、言っちゃうわけで。まだ一人も倒したわけではないというのに。空気に流されて。 だからだろう、周りの空気の変化にも気付けなかった俺は色々見落としていた。 「おい、なんの騒ぎだ?!」 騒ぎを駆け付け、数人の使用人たちがやってくる。 ぞろぞろと現れる使用人たちに、負傷した使用人たちは救世主と言わんばかりにいやらしい笑みを浮かべた。 「は…っ、丁度いいや。おい、お前らこっちに来い!」 どうやら現れたやつらもハルカの使用人のようだ。 ぞろぞろとやってくる奴らは、俺の姿を見るなり驚いたように目を丸くする。 それは、俺も同じだった。 前方と後方を塞がれ、逃げ場を無くした俺はまさかと息を飲む。 「お兄さんがまとめて俺らの相手してくれるんだってよ」 「なあ、佳那汰さん?」にやにやと笑う使用人。 まさかの予想的中に微笑みかけられた俺は青褪めた。 いや、確かに言ったけど、言っちゃったけど、この人数は無理だ。 「あ…なんかお腹の調子が…」 急激に冷めていく脳味噌。 すっかりと平静を取り戻した俺はそこでようやく自分が追い込まれていることを理解し、逃げることにした。妹の屈辱を晴らす?やっぱいい。そういうのは兄に任せておこう。 しかし、 「おい、どこにいくんだよ!」 背後から肩を掴まれた。 うん、まあ、逃げられませんね。 |