金>貞操>プライド

嫌な予感っていうものに限ってよく当たる。


「いやだ、離せって、離せよ……いッ!」


いきなり胸ぐらを掴まれたかと思えば今度は乱暴に床に突き飛ばされ、まともに受け身が取れず尻餅をついた俺は一体なんなんだと目の前の青年を見上げる。
矢先、慌てて起き上がろうとする俺の顔面を手で塞ぐように伸びてきた四川の大きな手に後頭部を床へと押さえ付けられた。
強引に寝かされ、あまりにも無防備な体勢に耐えきれず四川の手を引き剥がそうとしたとき指と指の隙間から覆い被さってくる四川と目があった。

まるで押し倒されたような嫌なアングルに血の気が引くのを感じたとき、伸びてきた手に着ていた服をたくし上げられる。


「やだ、おいっやめろっ!やめ、ぁ、脱がせんなって、やだ、四川…っ」


外気に晒される腹部に身震いした俺は慌てて捲り上がった服を整えようとするが、呆気なく服の中に侵入した四川の手に胸元をまさぐられ全身が緊張する。


「触んなってば、やだ、しせ……ッ」


一瞬殴られるのかと身構えたが、入り込んでくる四川の手は吟味するように人の体に触れるばかりで。
先程のやり取りを思い出した俺は全身の血の気が引いていくのを感じた。

やばい、こいつまじでヤるつもりかよ。


「四川じゃねえだろ?お前の方が新入りなんだから俺のことは四川先輩って呼べ。あと敬語な」


てめえ調子にのんじゃねえとぶん殴りかかりたいところだが実際自分よりもでかい男に押し倒され、あまつさえ脱がされそうになってみると反抗心は萎えるもので。
目を据わらせた四川に見下ろされれば一種の恐怖心が芽生えてくる。


「っわかった、わかったからッ!」


あまりにも理不尽克つ生意気な四川の要求に対して咄嗟に声を上げた俺は四川から顔を逸らし、そして服の中をまさぐる四川の腕をぎゅっと握り締める。


「お願い、や…っやめてください……ッ」


そして懇願。
なにが情けないって同年代であろうイケメン相手に力負けし、懇願する自分の声が震えてしまっていることが。

プライドはある。
あるが、わけのわからない理由で貞操の危機になるようなことは避けたい。
そうテンパる中でも色々打算して出したこの危機を忌避する最善の方法だった。

だが、肝心の四川はというと呆けたように目を丸くしたまま硬直しこちらを見据えるばかりで。

mokuji
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