悪質な執事誕生 (四川阿奈視点) 「バタバタうるせぇーな…、この家…」 先ほどから屋敷全体が慌しくなっていて、響く足音が耳障りで仕方ない。 中谷翔太の万能ナイフを使い、縄を解き、無事あの座敷牢から抜け出すことが出来たはいいが、出口が見当たらずさっきからずっと歩きっぱなしだ 。 日頃人目を盗んでサボることが多いお陰か、この家の人間らしきメイドやら執事からは逃げることは出来ていた。 が、ここまで慌ただしいといつバッタリ鉢合わせになるかもわからたい。 と、言うわけで歩いていると近くで足音がして、咄嗟に適当な部屋に入ってやり過ごそうとした俺。 襖を開き、そこに入り込んだはいいが、とんでもないものを見つけた。 ものっつーか、人だけど。 「おーい。もしもーし」 「……」 「……もーしもーし」 床の上、ぐったりと仰向けになったまま白目剥いたその男は眠っているらしい。 どれだけ揺すっても起きないその男は、途中で見掛けた使用人たちと同じスーツだった。 十中八九、こいつもここの人間なのだろう ちょうどいい。 汚れた服は目立つからスーツ借りよう。 閃いた俺は早速着替えることにした。 「つーかここ、出口どこにあんのかよ……っと」 三段までシャツのボタンを留め、上着を羽織る。 スーツなんて着たの初めてかもしれない。 身長体格にあまり差がないお陰がそれほど窮屈さはないが、やはり落ち着かない。 パンツ一枚で倒れる使用人の男を一瞥し、そのままその場を後にしようとした。そのときだ。 「あっ、その方、どうしました?」 ひょっこりと顔を出した若いメイドは気絶したパン一男に気付いたらしい。 慌てて俺の元へ駆け寄ってくる。 やべえ、と内心焦ったが、メイドは部外者の俺に気づいていないようだ。 ならば、好都合だ。 「ああ、なんか不審者がいたから捕まえたんですよ」 「まあ…大丈夫でしたか?」 「ええ、でもまたすぐに気付くかもしれませんから縛っていた方がいいかもしれませんね。あとは口を塞いでどっかに転がしとく方が…」 「そうですね、でしたら私縄とロープ用意してきます!すみません、お手を煩わせてしまい…」 やたらペコペコと頭を下げてくるメイドに、俺は改めて自分の姿に目を向ける。 もしかしたら使用人の中でも階級があるのだろうか。 なんて思いながら、その場を後にしようとするメイドの腕を掴む。 「ああ、ちょっと待ってください」 そうちょっと優しく声を掛ければ、面白いくらいその肩は跳ね上がる。 「それより、お姉さんにちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」 「っ、え、あの……」 「少々、お時間よろしいですか?」 にっこりと微笑みかければ徐々に赤くなっていくメイドに自然と口元も緩んだ。 化けるのも悪くねえな。 せっかくご丁寧に自宅まで招待されてんだから、手ぶらで帰るのは気が済まない。 少しだけ、遊んでいってやろう。 |