兄妹という名の主従関係

まさか、こんなタイミングでこいつと顔を合わせるとは思わなかった。できることなら合わせたくもなかった。
なのに、なんだ、今日は厄日なのか。いや、そんなこといったら先日も厄日だったし……と、現実逃避をしている場合ではない。


乱れる鼓動を必死に抑えつけ、どっと噴出す脂汗を拭う。

まだ幼さの残る3歳下の妹は、まるで親の仇でも見るような薄暗い瞳でじっと翔太を見上げていた。
そして、次の瞬間じわぁっとその目に涙が浮かぶ。


「翔君も酷いよ、あたしばっかり除け者にして。ミナトお兄様も…みんな、影で楽しそうなことしちゃってさぁ…あたしだって、あたしだってカナ兄を鎖に繋いで家畜のように扱いたかったのに!」

「は、ハルカちゃん、声大きいから、取り敢えず落ち着いて」


始まった。
始まったぞ、また。いつものあれが。

ボロボロと涙を零し、駄々っ子のように声を上げるハルカに狼狽える翔太は慌てて黙らせようと宥めるが伸ばした手を思いっきりべちーんと引っ叩かれていた。ご愁傷様である。
大泣きしていたのが嘘みたいにぴたりと泣き止んだハルカはそのままぐっと翔太の襟を掴んだ。


「はあ?なに?あたしに逆らうつもり?ていうか翔君さあ、なんでうちの使用人の服着てんの?新手のコスプレなわけ?似合わなーい、あなたみたいな豚には全裸で十分でしょ?」

「んぐっ」


つらつらと口から出てくる罵倒の数々は昔よりも酷くなっている気がしないでもない。というか悪化している、確実に。十四年間こいつに罵倒浴びせられ扱かれ奴隷のようにときには犬のように扱われていた俺が言うのだから間違いないはずだ。
精神的ダメージを受ける翔太を押し退けるように振り払ったハルカはそのまま俺の腕に絡みついてきた。


「カナ兄、こんなの放っておいて行きましょ?あたし、カナ兄が逃げ出したせいでずーっと我慢してたんだから。ほら、久し振りにおままごとをしましょ?」


語尾にハートを撒き散らし、無邪気に微笑むハルカ。
普通なら、もしこいつの本性を知らないやつかドM抉らせたやつならときめくかもしれないが、俺はただ悪寒しか感じない。
恐怖で体が硬くなり、大量の汗をだらだらと流す俺を上目遣いで見上げるハルカは口端を吊り上げ、蛇のように笑った。


「勿論、カナ兄はあたしのためならなんでもする奴隷役ね」


mokuji
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