妹?いいえ、女王です。

現れた翔太が元気そうなのを確認し、ほっと安堵する反面倒れたままビクともしない向坂さんに動揺を隠せない。


「っていうか、これ、お前なに仕込んで……」

「大丈夫。ちょっとした睡眠薬だから」


口にした瞬間落ちる睡眠薬てやばい香りしかしないのだが。
しかし、翔太の言うとおり向坂さんは眠っているだけのようだ。聞こえてきた整った寝息に安心する。
それも束の間。


「そんなことより、ボサっとしてる暇ないよ。さっさとここを出よう」


どうやら、翔太は最初から俺を連れ出してくれるつもりだったらしい。
手を掴まれ、強引に引っ張られる。
切羽詰まった翔太に気圧されながらも、あることを思い出した俺は「あっ、ちょ、待って」と慌てて翔太を呼び止める。


「どうしたの?」

「これ、お兄ちゃんからもらったんだけど」


そういって、携帯端末をポケットから取り出せば、「向坂さんのポケットにでも突っ込んどきなよ」と翔太は問答無用でそれを向坂さんの胸ポケットに突っ込んだ。
翔太のこういうざっくばらんな性格はたまに驚かされる。
俺なら兄に怒られることを恐れて端末に熱湯掛けるくらいしかできないだろう。


「ほら、行くよ。早くしないと」


そして、気を取り直した翔太がそうどこか落ち着かない様子で俺の手を引っ張ったときだった。


「……どこに行くの?」


背筋から這い上がるようなか細く今にも消え入りそうな少女の声が、した。
翔太が向かおうとした開いた扉のその向こう。
忘れかけていた、忘れたかったその声に、俺と翔太は凍り付いた。


「……カナ兄、どうしてあたしに会いにきてくれないわけ?ずっとずっと心配してたんだから、脳味噌ミジンコレベルの一人じゃなーんもできないカナ兄が外での生活を送ることができるのか………」


ずるずると、引き摺るような足音。
笑っているのか泣いているのかわからないような高揚感のない震えた声。
全身から血の気が引いていくのがわかった。
同様、真っ青になった翔太は背後に近付く人影を振り返る。
そこには、懐かしくも悍ましいそいつの姿があった。


「はっ、は、は、ハルカ…っ!」


寝る前だったのか、色を抜いたような淡い金髪の長い髪を乱したそいつは寝間着姿で立っていた。


mokuji
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