仲間が増えた! 全裸からいつものスーツに着替えた兄は「これでいいか」とこちらを振り向く。 なんでそんなに不服そうなのかわからなかったが、全裸よりマシだ。 頷き返したとき、「ああ」と兄は思い出したように俺を見る。 「そうだ。今日からまたこの部屋で生活するにあたってお前の遣いを用意した」 「遣い?」 懐かしいその響きに嫌な予感がし、眉根を寄せた時。 同時にパチンと兄の指が鳴らされ、次の瞬間、しゃっと襖が開いた。 「失礼します」 そう言うなり入ってきたスーツ服の男に、思わず「ひいいっ!」と飛び上がる。 そして、兄同様自分が全裸だったことを思い出し慌てて布団を頭までかぶった。 頭まで隠す必要がないと気付き、恐る恐る顔を出せば兄の斜め後ろに立ったその男は目が合うなり深く腰を折る。 「向坂だ。俺の居ない間、お前の面倒はこいつに任せる」 向坂と呼ばれた男は、「精一杯尽くさせて頂きます」と再度頭を下げた。 年齢は、兄と同じか下くらいだろう。 黒髪の真面目そうな男だったが、兄が紹介してくる人間にまともなやつがいないことを知っている俺はどうも仲良くする気にはなれなかった。 狼狽える俺に構わず、スーツからなにか取り出した兄はそれを俺へと放った。 「ほら」 目の前に落ちるそれは最新式の携帯電話だった。 「寂しくなったときや妙な真似を起こす輩が出てきたらすぐに連絡しろ」 兄の手から直々に渡されるということは既に何かしらの工作が施されていることは明らかで、だからといって拒否れば更に拗れるとわかっていた俺は「……うん」と大人しくそれを受け取ることにした。絶対意地でも使ってやらねーけど。 なんて企んでいると、先ほど向坂が入ってきた襖が開き、今度は別のスーツ服の男が現れた。 「未奈人様、そろそろお時間が……」 どうやら兄の秘書のようだ。 こわごわと耳打ちする秘書に、特に感情を示すわけでもなく兄は変わらぬ調子で「わかった」とだけ頷く。 そして、 「佳那汰」 名前を呼ばれた。 「今日は波瑠香(はるか)の学校が休みだ。お前がいなくなって随分と心配していたようだから、ちゃんと声を掛けておけ」 兄の口から出た名前に、ぎくりと全身の筋肉が緊張する。 波瑠香。原田波瑠香。 俺の三つ下の妹で、確か今年高校二年になるはずだ。 実妹もののAVに全身から拒絶反応が出るのは十割方こいつのせいと言っていいほど、俺は波瑠香が苦手だった。昔から。名前を聞くだけで、心がざわつく。勿論悪い意味で。 「……」 「じゃあ、向坂、あとは任せたぞ」 どうやら、兄は今日は家にいないようだ。無理もない。兄が社会人になった時から多忙な日々を送っているのは知っていた。 なんの仕事をしているのか今でもよくわからないが、兄がいないことに越したことはない。 部屋を出ていく兄と秘書に「畏まりました」と頭を下げる向坂さんとともに俺は視線だけでその後ろ姿を見送った。 |