兄の存在 「やめろって、や、ぁ…っ、だめ、お兄ちゃ……っ」 じんじんと痺れる臀部を滑るように這う大きな兄の手の感触に、腰が痙攣する。 優しい手付きが余計生々しく、もどかしさのあまりに体の奥が疼きはじめた。 逃げるように腰を動かそうとするが、赤く腫れたそこを撫でくり回されるたびに下半身から力が抜け落ちて儘ならない。 それどころか、 「どこの馬の骨かもわからない男には触らせて実の兄である俺には触られるのが嫌だと言うのか」 「っそ、じゃ、ないけど……っ」 「けど?なんだ」 くちゅくちゅと音を立て、満遍なくソープを塗りたくられ堪らず仰け反った。 逃げようとする腰を掴まれ、そのまま腿の付け根まで滑り込んだ兄の指先はそのままゆっくりと割れ目に近付く。 これは、そこは、やばい、やばい。洒落にならない。いや今でも洒落にならないが、だけど、それ以上は……っ! 「っんぅ、ぁっ、や…ぁあ…っ!」 やめろ、と言いたいのに、兄の指先一つ一つに体は翻弄され、湯船の熱気諸々で蕩けそうになる脳みそでは呂律が怪しくなってしまう。 くちゅりと音を立て、割れ目をなぞってくる指先は徐々にそこへと近付いていき、あまりの緊張に息が詰まりそうになった。 「だめ、や…っお兄ちゃん、手、放して…放せよぉ…っ」 「お兄ちゃんは、ずっと心配していたんだぞ。佳那汰が飛び出して、居場所を突き止めても毎晩まともに眠れなかった。本当は引きずってでも家に連れて帰りたくて仕方がなかった。でも、お前が決めたことだから、俺は中谷君に頼んで佳那汰を陰から見守ることに決めた」 なにを言っているんだこいつは、と呆れる暇もなく託しまくる兄は一息つき、俺から手を離す。 それも束の間。 安堵するよりも先に、「なのに」と低く地を這うような声で唸る兄。 瞬間、露出した肛門に指をねじ込まれた。 「っひ、ぃッ」 息の詰まるような圧迫感。 一瞬、確かに目の前が真っ白になり、ぐぐっと更に奥深く体内へと入り込んでくる指に現実に引き戻される。 「中谷君から毎日届いていたはずの連絡が途切れたかと思えばどういうことだ。俺はお前があんなところで働いていると思わなかったぞ、佳那汰。よりによって、どうして」 「っぁっ、そこ、だめ…っ!お兄ちゃん、やめろって、やだ…っ!」 「お前が悪いんだぞ、佳那汰」 嘆くわけでも憤るわけでもない、その淡々とした平坦で冷たい声はどこか幼い子供を叱り付けるような気配すらあって。 次の瞬間、ソープを絡め根本までずっぽりと深く挿入された指がぐっと最奥を引っ掻き、電流が走ったような感触に「んんぅっ!」と背筋が震えた。 「はっ…ぅ…うぅ……っ」 視界が潤む。 乱れた呼吸を整える余裕すらなく、背後の兄の存在に、忘れていた、忘れたかった自分が帰ってきたみたいに全身が震えた。 「やはり、外へ出すべきではなかったんだ」 「あっ、や、いやだ…っ、も、お兄ちゃ、お兄ちゃん……っ」 音を立て、中を丁寧に隈なく指で擦られれば、違和感とはまた違う感覚が込み上げてくる。 俺は、この感覚を知っている。 知っているだけに、こんな状況でそんな感覚を覚える自分が恥ずかしくて嫌で嫌で堪らなくて、やがて、体の奥で熱とともに渦巻く感情は涙となって目頭から溢れ出した。 しゃくり上げ、我慢が出来ず泣き出す俺に兄はそっと手を伸ばし、濡れた髪を撫でられる。 優しい手。 小さい頃、すごく大きく感じたその手は今でも大きくて。 「安心しろ、佳那汰」 耳もとで囁かれるその声は、今日初めて聞いた兄の感情が篭った声だった。 「もう二度と、お前を俺の目の届かないところに置かせはしない」 微笑む兄、原田未奈人に俺は全身の血の気が引いていくのを鮮明に感じた。 |