ファーストキスは鉄の味 四川の口から出た言葉に全身から血の気が引き、悪寒が走る。 この展開はまずい。冗談抜きに。 青ざめた俺は咄嗟に四川の手を振り払おうとするが力強く掴んでくるそれは抵抗すればするほど指先が食い込み痛んだ。 それでもはいわかりましたとされるがままになるわけにはいかない。 「いらねえよ、おいっ、離せって!」 「こんなもん持ち歩くやつがなに恥ずかしがってんだよ」 暴れる俺を押さえ付け、そのままベルトに手を掛ける四川は「遠慮すんなって」と笑う。 遠慮じゃねえよ防衛本能だ。 「やめろ、おい……っ」 なんとしても逃げ出したくてとにかくベルトを死守しようとする俺に四川は面倒臭そうに舌打ちをし、こちらを睨み付ける。 「変態のくせにいちいち抵抗してんじゃねーよ」 どうやら完全にこいつの中では俺がマイディルドを持ち歩く変態になっているようだ。 いやまあ普通に考えたらそうだが好きで持ち歩いているわけではない俺からしてみればいい濡れ衣だ。 なんとしても誤解を解かなければ。 そう思った矢先だった。 「だから違……んんっ!」 両頬を摘まむように掴まれ顔を無理矢理上げさせられたかと思ったら、次の瞬間唇に柔らかい感触が触れそのまま唇を塞がれた。 見開いたその視界に写るは四川の目元。 あまりにも急な出来事に対応出来ず思考停止した。 ちょ、え、なにこれまじっすか。 なんで俺初対面のしかも男にキスされてんのかよ。 すさまじいカルチャーショックに一瞬白目剥いた俺だがぬるりとした生暖かい舌が唇に触れ、すぐに現実に引き戻された。 「んんっ、んーッ!」 やばいまずいなんだこれは。 いや別に初対面でも女の子なら大歓迎だ。美形なら尚更。 しかし、相手は美形は美形でもかわいげの欠片もない男だ。 あり得ない信じたくない俺何気に初チューだったのに初めては夜景の見える公園でしんみりとした空気の中お互いに躊躇いながらのぎこちない初キスって決めてたのに。 なんなんだこれは、今までぐーたらしてた分の天罰か…! 「ふ、ぅ……ッんん……ッ」 必死に唇を閉じ舌の侵入を拒もうとするが俺が口を閉じることで行き場を失った四川の舌はべろりと俺の唇を舐め、そのまま薄皮に吸い付く。 ちゅ、ちゅ、とわざと小さなリップ音をたてて一方的な唇への愛撫を繰り返してくる四川に堪えられなくなった俺はつい唇を開いてしまった。 「んっ、ぅうッ」 瞬間、ぬらりと唾液で濡れた長い舌が開いた僅かな隙間から咥内へと潜り込み、そのまま俺の舌へと絡み付いてくる。 差し込まれた舌が邪魔で口を閉じるにも閉じれずもがく俺。 瞬間、じゅるっと音を立て唾液ごと舌先を吸われた。 そして感じたことのない感覚に堪らず全身を強張らせたときだ。 「ふぐ……ッ」 ガリッ。 そんな音を立て、思いっきり閉じてしまった歯は間にあった肉に思いっきり刺さり、咥内に侵入していた四川の舌はびくりと跳ねた。 そしてじわりと咥内に広がる甘い鉄の味。 思いっきり四川の顔がしかめられたと思った次の瞬間、顔を青くした四川は俺を突き飛ばすように顔を離す。 そして、ゆっくりとこちらを見た。 「……ってぇな、糞……っ」 額に青筋を浮かべた四川は唇に滲む赤い血を吐き捨て、俺を睨み付けた。 その鬼のような形相に俺はびくりと震える。 あれ、俺、正当防衛だよな……? |