さよなら翔太

「っわ、ぷ……っ!」


水を含んだ服が全身に絡み付いて、思うように腕が動かない。
水中、藻掻くように淵へ手を伸ばせば、顔を青くした翔太は「カナちゃん!」と慌てて浴槽へと駆け寄った。


「お兄さん、なんてことを……!カナちゃんは金槌なのに!ああ!こんなに浅いのに必死に藻掻いてるカナちゃん可愛いなぁ!最早打ち上げられたサカナだよ!」

「中谷君、色々だだ漏れてますから」


翔太てめえ仮にも人が溺れてんのにてめえ。
浴槽から必死に手を伸ばす俺に携帯を向け、こちらを連写しまくる翔太は案の定兄に携帯を取り上げられる。


「ああっ!僕の携帯その3!」


何本持ってんだよ。


「さて、ここからは兄弟水入らずの時間をお願いしたいのですが、一先ず中谷君には出て行って貰いましょうか」


ごく自然な仕草で翔太の携帯その3を仕舞う兄はそう言うなりパチンと指を鳴らした。
それと、脱衣所の扉が開くのはほぼ同時で。
そこから現れた黒スーツを身に纏った屈強な男たちは浴室へ入ってくるなり翔太を取り囲んだ。


「ちょっ、え、なにこのいかにもな人たち!」

「お客様だ。……丁重に扱いなさい」

「はい、ミナト様」


数人の男にがっと両腕を掴まれ、あっさりと捕獲される翔太。
兄は、翔太をどうするつもりなのかわからなかったが、だからといって目の前で旧友が拉致られるのを見てどうも思わないわけがなくて。


「しょ…、うた…っ」

「カナちゃん……!」

「今までありがとう……っ」

「えっちょ、やめてそういう不吉なフラグたてんの!ねえ、カナちゃん合掌やめて?!」


翔太は黒スーツにつれていかれた。

mokuji
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