悪ノリアテンション

本当、こいつは他人ごとだと思って好き勝手しやがって。
こんな状況でなければ、と歯軋りをするが現状を覆すこともできずされるがままになってしまう。
せめて、とぐいぐいと四川の手を振り払おうとするが、通路側に近い俺が抵抗すればするほど衣装が不自然に揺れ、それに気付いた俺はどうすることもできなくて。
ぐっと唇を噛み、堪える俺に四川は楽しそうに口元を歪める。
そして、もぞ、と腹を撫でるようにエプロンの脇からごつごつとした指先が侵入してきた。


「ぁあ……っ?!」


一枚のTシャツ越しに突起を撫でられ、堪らず声を漏らす。
慌てて口を閉じながら四川の手から逃げようと後ずさればそのまますっぽりと相手の腕の中に収まってしまい、しまった、と思った時には時すでに遅し。抱き竦めるように上半身を絡め取られ、身動き取れなくなってしまう。


「っ、おい……っ」


どういうつもりだ、という言葉の代わりに四川を睨もうとすれば、乳輪を潰すように胸を揉まれ、思わず腰を引く。
しかし、やつの手は止まらない。


「っ、やめろ、って、おいっ」

「あんま騒ぐなって、…兄貴にバレたら困るんだろ?」

「っ困るよ、困るに決まってんだろうが!」

「なら、黙っとけよ」


耳元で笑う四川。
口元を手で塞がれ、開き掛けていた唇を割るようにして骨っぽい指が口内へ入ってくる。
驚いて、口の中を荒らす指に歯を立てるがやはり思うように力が出ないのは状況が状況だからか。


「っふ、ぐ……っ」

「はっ、甘噛みか?…あんま可愛いことしてんじゃねえよ」


胸の突起を摘まれ、ぐにぐにと指の腹で捏ねるように弄られれば衣類が擦れ、ぞわぞわと背筋に嫌なものが走る。
首を横に振り、せめてやつの指から逃げようとするが俺が思っているよりも四川はしつこくて。


「んっ、ふ、ぅ…っ」


指でこじ開けられた唇からくぐもった声と唾液が溢れる。
気持ち悪いのに、気持ち悪くて仕方ないのに、こんな場合じゃないのにってわかってるのに、どうにもならない。
触られた箇所を中心に全身が火照って、ずるりと腰が抜けてしまいそうになるのをパイプを掴んで堪えるが、これも、いつまで持つかわからない。
四川はこの状況を楽しんでる。
兄さえ、兄さえここからいなくなったらすぐに出る。
それまでの我慢だ。
あまりの屈辱諸々に沸々と沸いてくる怒りを抑えながら、俺はこうなったら徹底的に無視してやると決心する。遅いとか言うなよ。


「……」

「お?急に大人しくなったな」

「……」

「はっはーん、なるほどな。いいぞ、お前がそのつもりならこっちにも考えがある」


え、なに、考えって。
挑発とはわかっていたが、気にならずにはいられない。
決心した傍から揺ぐ意思にはっとした俺は慌てて頭を振り、再度聞こえないふりして身を縮めた。
不意に、エプロンの脇から手が離れる。
そして、つい、背後に目を向けそうになった時だ。


「……っ!」


腰を掴まれ、仰け反った背筋をなぞるようにシャツを大きくたくし上げられる。
外気に晒される背中。
ぎょっと目を見開き、声を上げそうになって慌てて俺は口を閉じた。

別に、背中ぐらいどうでもいいじゃないか。
こいつに見られようが恥ずかしくもなんともない。

なにされるかわからないという恐怖と緊張でバクバクと加速する鼓動を必死に知らんぷりしながら取り繕う。
今は、兄の方に気を向けなければ。
そう、乱れる注意力を再び統一したときだった。

ちょん、と腰に指先が触れる。
その瞬間、ガチガチに緊張していた全身の筋肉はビクッと凝縮し、肩が大きく跳ねた。
息が詰まる。
ただ、触られただけなのに、頭が真っ白になった。
緊張のせいか、四川の動きに全神経が過敏になっているのがわかった。
だからこそ、俺はあまりのいたたまれなさに泣きそうになる。
それを知っているのか知らないのか、ただ背後でやつが笑う気配がして、また顔が熱くなった。


「体、震えてんぞ」


耳元で囁かれ、ドクンと心臓が跳ねた。
剥き出しになった背中の筋をなぞるように四川の指は当たるか当たらないかくらいの強さでそのままつぅっと背筋を撫でられ、びりびりと背筋に電流が走る。


「っふ、ぅ、んん……っ!」


しがみつくようにパイプをぎゅっと握る。
無意識に腰が揺れ、四川から逃げるように大きく胸を仰け反らせればパイプが軋んだ。
幸い、兄たちは店内をうろつきながらごちゃごちゃ揉めている。
そのお陰が、緊張が緩んでしまったのだろう。


「兄貴がいるここで、お前のこと犯したら気持ちいいだろうな」


その一言に、頭を殴られたような気分だった。
全身から血の気が引き、濁りかけていた理性が覚醒する。

そんなことされたら、兄どころの問題ではなくなる。ケツとか。

mokuji
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