自虐的ヒクツイズム

バイト内容について。
紀平さん曰くこの店にシフトというものは存在していないようで出たいときに出て帰りたいときに帰り、閉店時間、もしくは店長か紀平さんに言えばその日働いた分の給料が貰えるようだ。
あまりにもルーズな店の仕組みに楽そうでよかったと安心する反面こんなゆるいルールで大丈夫かと逆に不安になってくるがそれで成り立っているのだから大丈夫なのだろう。


「ってことだから、すぐに入れるんなら入ってみる?一応うちは制服ない代わりにこれ着なきゃいけないけど多分かなたんのサイズならロッカーの方に余ってなかったかな」


『これ』と言って紀平さんは着ていたエプロンを指で摘まむ。
派手な紀平さんに質素なエプロンはなかなか似合わなかったが逆にそのアンバランスさがいい味を出していないこともない。
内心失礼なことを思う俺を他所に紀平さんは四川阿奈に目を向けた。


「阿奈、どうせお前も着替えるんだろ?一緒に行ってついでに案内してやれよ」

「えー、なんで俺が」

「だって俺昼飯まだ食ってないし」


そうヘラリと笑う紀平さんにあからさまにつまらなさそうな顔をする四川は「なんすかそれ」と唇を尖らせた。
ここまで露骨に嫌がられると心にくるものがある。


「着替え済んだらなんか作ってやるから」

「紀平さんのすっげー甘いからいらねえっすよ」


そう紀平さんの言葉に顔を引きつらせた四川はいいながらそそくさと休憩室を後にしようとする。
逃げたくなるほど俺の面倒を見るのは嫌だということなのだろうか。
若干傷付きつつ四川の背中を目で追っていると、ふと扉の前で立ち止まった四川阿奈はこちらを睨むように見た。


「ほら、なにぼけーっとしてんだよ。さっさと着いてこいよ」


そして「ノロマ」と小さく唇を動かす四川。
どうやら俺を更衣室へと案内してくれるようだ。
ありがたい、ありがたいが、なんだこの上から目線は。
なぜ初対面の相手にノロマ童貞彼女いない歴=年齢のヒキニートと言われなければならないのか、この店で上から目線は決まりなのかともやもやしつつ渋々頷き返した俺は「いってらっしゃーい」と暢気に手を振る紀平さんに頭を下げさっさと先を行く四川のあとを追い掛ける。


サディスティック・サディズム

mokuji
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