●●フラグ

いつもなら、テメー調子にのんじゃねえと突っぱねるところだろうか、今の俺には司の助けが必要だった。


「わっ、わかった。一つだけなら、言うこと聞く。…それでいいか?」


「よし、僕に任せて」

「仕方ない、可愛いバイトのためだ。一肌でも二肌でも脱いでやろう」

「いや、お前らじゃねえだろ」


即答する店長と翔太に呆れ顔の四川は、突っ込むのも馬鹿らしいといった様子でぼりぼりと頭を掻く。


「信じらんねえ、こんな面倒臭そうなのに首突っ込む気起きねえよ、普通。つーか、無理だろ。普通に…」

「困ったときはお互い様ですし、ね?」

「お前もか!」


控えめに微笑む笹山。
その言葉が嬉しくて、じわっと心が暖かくなる。
しかし、四川はなにかまだ腑に落ちないところがあるようだ。


「あーあ、知らねえからな。どうなっても」

「取り敢えず、僕と時川君は先に行ってるよ。カナちゃんはどこか隠れてて」


「……」


「では俺もご一緒しよう。第一印象が大切だからな、これから長い付き合いになるだろうし挨拶しなければ」

「店長が言うと彼女の父親に挨拶しに行く彼氏のセリフにしか聞こえないんですが気のせいですよね」


「……っ」


「時間、掛かり過ぎると怪しまれんじゃないのか」

「わかってるよ」


「っあぁ、もう!」


我慢の尾が切れたのか、苛ついたように声を上げる四川にびっくりして目を丸くした時。
いきなり、やつに腕を掴まれた。
そして、そのまま四川に思いっきりうでを引っぱられる。


「こっちに来いっ」

「っちょ、え、なに、」

「にーちゃんから逃げたいんだろ。なら、黙ってついてこいよ」


苛ついた様子でこちらを睨んでくる四川。
キツイ言葉とは裏腹に、どうやらヤツなりに俺のことを心配してくれているのかもしれない。
俺は小さく頷き返し、四川の服の裾を掴んだ。


「あ…ありがと」


なんだか照れ臭かったので小さく呟けば、ちゃんと四川の耳に届いていたようだ。
僅かに、その耳が赤くなっていた。

mokuji
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