マイペースピアス男

「お世話ってことは……ああ、君が透が言ってた面接受けに来た子か」


そうふと思い出したように続ける紀平さんの口から出てきた聞き慣れない名前に「透?」と聞き返せば紀平さんは薄く笑んだ。


「レジんとこいなかった?赤いエクステのでっかいの。あれが笹山透君、仲良くしてやってね」


あんたもなかなかでかいけどな。
と思いつつ、先ほど店の奥まで案内してくれた人良さそうな青年を思い浮かべながら俺は「はあ」と頷く。


「んでこいつが四川阿奈で俺がこの店のチーフみたいなのやってる紀平辰夫」


そして側に立つ阿奈、改め四川阿奈を指差した紀平さんは「よろしくね、かなたん」と爽やかな笑みを浮かべた。
厳めしい顔付きに似合わず優しそうな笑顔に安堵しかけて、俺はその口から出た恐らく俺の呼び名であろうそれに硬直する。


「か、かなたん?」

「あれ?やだ?可愛いと思うんだけどなあ、かなたん」


そんなかわいさ求めなくてもいいです、と言いかけたとき紀平さんは「まあいいや」と切り換える。


「店長から俺に店のこと聞けとか言われたんだろ?」


そして、「じゃあ、手短に説明させてもらおうかな」と紀平さんは笑った。
あんなに耳にピアスぶら下げて伸びないのかな、なんて思いながら俺はこくりと頷き返す。

mokuji
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