それは突然やってくる

もしゃもしゃと饅頭を平らげてしまいそうな勢いの翔太を止め、店長の土産である温泉饅頭を皆で囲む。
そして最後の一つを口に入れたとき。
事務室の扉が開いた。
開く扉から顔を覗かせたのは笹山だった。
俺の姿を見るなり、笹山はぱあっと顔を明るくする。


「あ、原田さん。こちらにいらしたんですか」

「どうした笹山、そんなご無沙汰していた飼い主に駆け寄る犬みたいな顔をして」

「えらい可愛らしい例えですね…」


茶化す店長に早速流されそうになっていた笹山だったが、ハッとして、慌てて俺に駆け寄る。
そして、ちょっと戸惑った様子で俺を見た。


「いえ、そんなことより原田さん。お兄様がお見えになっています」


それはとても自然な調子で、まるで上京した両親が自分の職場へ訪れたかのような、そんな口調だった。


「ああ、お兄様……って、は?」


俺は、湯のみの伸ばした手を止め、笹山を見上げる。
翔太も、同じだった。
浮かべていた笑みを凍らせ、笹山に目を向ける。
自分の耳を疑う俺達に気づいているのか、いないのか、笹山は小さく頷いた。


「ええ、お兄様です。ミナトと言えばわかると仰ってました」

「…ミ、ナト」


なぞるように、確かめるようにその名前を口にする。
数年ぶりに口にしたその名前は今でも覚えていた。
忘れるはずがなかった。

ミナト。
原田未奈人。

思い当たる人物は一人しかいない。
生まれて十七年間、一緒に暮らしてきた兄。
俺が、大嫌いなやつ。


「う、嘘でしょ」


青くなった翔太は、うわ言のように呟いた。


「なんで、あの人が」


そんなの、俺にわかるわけがない。
そう答えようとしても、開いた口から言葉は出なかった。

mokuji
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