正しい環境づくりのススメ

紀平さんと別れ、肝心の店長の居場所を聞き出すことを忘れていた俺は慌てて引き返そうとしたが、翔太と鉢合わせになりかねないので諦めて通路を歩くことにした。

そして、他の店員から店長が事務室にいるとの情報を得、俺は事務室へとやってくる。


「あの、なんか紀平さんに言われてきたんですけど…って、うおっ!」


瞬間、前方から衝撃。
何事かと視線を下げれば、腰に店長が抱きついているではないか。


「原田ああ!よく帰ってきた!心配したぞ!!」

「いや、その、ご迷惑おかけしてすみません。てか、抱きつかないでくださいよ!どっ、どこに頬擦りしてるんですか!」


ただでさえ翔太のお陰で過敏になっているところなのに。
慌てて店長を押し退ける。
いや、ほんと改めて考えたら店長の顔を見るのは久し振りだ。
俺が復帰した日、丁度店長の出張と被っていたようで。
一頻りスキンシップを終え、ご満悦な店長は改めて俺に向かい合う。


「いや、元気そうで何よりだ。せっかく弄り甲斐のある玩具、いや、大切な期待の新人がいなくなったと聞いてどれだけ寿命が縮んだと思ってる」


「ほら、美しい肌がこんなに荒れてしまっているではないか」と言いながら悩ましげに不満を漏らす店長。
いや、荒れるどころかめっちゃツヤツヤしてるんですけど。
というか女子か。


「ああ、これお土産だ。紀平とあの眼鏡がいないところで食べろ。いいか?一人でだぞ」


ふと思い出したように大きめの箱を差し出してくる店長。


「温泉饅頭だ」


しかも温泉かよ。
通りで艶々してるわけか。
羨ましいのやらなんやら突っ込むのも疲れて「どーも」と、それを受け取ろうとしたとき。
横から伸びてきた手に箱を横取りされる。

横を見ればそこには…。


「翔太……っ」

「いやーありがとうございます。美味しそうですね。あ、白餡ですか」


言ったそばから饅頭をもっもっと食べ始める翔太。
あまりの神出鬼没ぶりに、流石の店長もぎょっとしている。


「どっ、どっから湧いてきた貴様…!!」

「やだなぁ、人を蛆虫みたいな言い方しないでくださいよ。僕はただ、カナちゃんの匂いを追いかけてきただけですから」


微笑む翔太の手には最新のタブレット携帯。
ハッとし、俺の携帯を取り出せば翔太はにやぁっと笑った。
こいつ、俺の携帯に何しやがった…!


「いやぁ、ちゃんとマーキングした甲斐がありました」

「ストーカーだ!ストーカーがいるぞ!」

「いやですね。僕はただの保護者ですよ。ストーカーなんかしなくても、カナちゃんは僕から離れられないんですから」


「ね、カナちゃん」と、肩にぽんと翔太の手が乗る。
無言で振り落とした。


「え、あれ、カナちゃんが目もあわせてくれない」

「心は離れ切ってるみたいだな。同情してやろう。…しかし中谷、お前が愛の戦士だろうがなんだろうが構わないが公私混同は許さないぞ。給料以上の仕事はしてみせろ。でなければ…」


また始まったとコメカミを押さえたくなるように店長の説教だが、翔太の場合もっと怒られてもいいだろう。
いいぞもっと言ってやれ、と視線でエールを送っていれば無言でエプロンからなにか取り出した翔太は店長の手になにか握らせる。


「ほどほどにな」

「おいこら店長!!」

「く…っしまった、手が勝手に!」


なにが手が勝手にだよ。
言いながらもしっかり徴収してるのはどこの誰だよ。
ちゃんと店長から取り返して翔太のエプロンに戻せば、翔太が舌打ちしていた。
こいつはもう…!

mokuji
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