僕以外のイケメンは爆発しろ。

「随分と浮かない顔だね。なにか心配事?」


そこまで僕は分かりやすいのだろうか。
ポーカーフェイスな哀愁漂うクールイケメンを演じていたつもりだったんだけど。


「……まぁ、色々あるもんで」

「へえ、そりゃ大変そうだね」


全く他人事な調子で相槌を打つ紀平辰夫。
白々しい口調に真意が読めない軽薄な態度はあまり得意ではない。
僕はわかりやすい人間が好きなのだ。
言葉よりもすぐ顔に出るような、そう、カナちゃんとか。…カナちゃん、どこ行っちゃったんだろうなぁ。あー駄目だ、また沈んできた。


「ま、考え事もほどほどにしておきなよ。心配しなくても、すぐ解決するだろうから」


項垂れる僕に紀平辰夫はそれだけを言い残し、さっさとその場を離れていく。


「……」


なんだ、今のなにかこう意味有りげなアドバイスは。
フラグか、何かのフラグか。もしかしてあの男がカナちゃんを攫ったんじゃないだろうな。
ああ、カナちゃん。どうせなら全裸にしとくべきだった。馬鹿だとは思ってたけど、まさかあの格好で部屋を出るなんて思わなかったんだもん。完全に僕のミスだ。僕の作ったあのカナちゃん専用ウエイトレス衣装が完璧すぎてカナちゃんてば普通の服感覚で出ちゃったんだ。お馬鹿だから。


「おい、朝礼始まるってよ」

「はぁ?だりぃ、勝手始めとけよ」

「阿奈、そんなこと言わないの」


聞こえてくるバイトたちの声を聞き流しながら、一人カナちゃんの安否を心配していた時だった。
「中谷さん」と笹山に呼ばれる。


「中谷さんもどうぞこちらへ」


それどころではないのだが、多少合わせないと辞めさせられる可能性もある。
出来るだけ、合わせないと。


「うん、そうだね」


そう言って、僕は先を行く笹山たちの後を追いかける。
それにしてもこの笹山という男、結構いい奴そうだ。
まあ、どうせ猫被ってんだろうけどね。
そうじゃなかったら性格のいいイケメンとか爆発しろよ。
あ、それじゃ僕まで爆発してしまうか。
と、下がりかけるモチベーションを無理やり上げながらスタッフルームへと向かう。

mokuji
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