知り合い＝セフレという不純

店長の井上と別れ、事務室を後にした俺は先刻店長から言われた通り休憩室前までやってきていた。
小さくノックしてみるが反応なし。
仕方なくそっと扉を開いてみればそこにはなかなか広い空間が広がっていた。
談話室に給水室、シャワールームなどを全て一ヶ所に集めたような部屋だった。
ソファーの前に置かれたテレビは最新型の薄型大画面。
翔太んちにも似たようなのがあったなとか感動していればその壁際のテーブルには同様薄型のデスクトップパソコンが設置されている。
無駄な居心地のよさ。
全てが物珍しくてきょろきょろと辺りを見回してみるが人気がない。
休憩室の台所までいき、誰か使うのかこれとか思いながら眺めていたときだった。

ガチャリと扉が開く。


「お」


聞こえてきたのか聞きなれない男の声。
誰かが来たようだ。
開いた扉に目を向ければ、焦げ茶髪の青年が立っていた。
量が多いその前髪をゴムで縛ったその青年は俺と同い年くらいだろうか。
店内にいた店員たちとは違いエプロンを着ていないが、ここにいるということはやはりこの店の店員なんだろう。
なんかこう、チャラそうなやつだった。


「……誰あんた」


台所に立つ俺を見るなり休憩室に足を踏み入れた青年は言いながら近付いてくる。
低い声。
なんとなく身構えてしまう。


「外、部外者は立ち入り禁止って書いてあったんだけどなあ、勝手に入ってきちゃダメだろ？迷子か？」

「あー……その、俺は井上さんに言われて紀平さんって人を探して……」

「は？紀平さん？」


俺の口から出た名前に青年はきょとんと目を丸くした。
そして次の瞬間、再びガチャリと音を立て扉が開く。
そして現れた男に俺は僅かに後ずさった。


「あれ、阿奈珍しいね。こんな時間から来るなんて」


色を抜いたような明るい髪を短く切ったその男は190くらいあるんじゃないかってくらいでかい。
両耳にぶら下がる大量のピアス。
薄着のシャツの下から覗くタトゥー。
なんというかこう、街で通り掛かったら目を合わせたくないタイプだった。
しかし運命というものは酷なもので、阿奈と呼ばれた茶髪の青年は現れた派手な男に目を向け「紀平さん」とばつが悪そうな顔をする。

店長が言ってた紀平さんってこの人かよ。
すっげー怖いんだけど！


「なにその子、阿奈のセフレ？勝手に連れ込んじゃダメじゃん」

「違いますよ、つーか紀平さんの知り合いじゃないんですか」

「えー？知り合いだっけ？んー覚えてねえわ」


やってきた紀平さんと阿奈と呼ばれた青年に囲まれ、硬直する俺。
狼狽える俺に気付いたようだ。
腰を曲げ、俺の顔を覗いてくる紀平さんはにこりと人良さそうな笑みを浮かべ「君、どうしたのこんなところで」と尋ねてくる。


「あの、井上さんに紀平さんに会えって言われて……」

「ああ、店長のセフレか」


横から口を出してくる阿奈。
だからどうしたらそんな下世話な方向にいくんだとか「ああなるほど」と納得している紀平さんに突っ込みたくなりながら俺は「今日からこの店でお世話になる原田佳那汰です」と続けた。つまらなさそうな顔をするなそこの二人。