人間空気清浄機は面倒を撒き散らす

(中谷翔太視点)


カナちゃんと同じ店でバイトする。
無事、その目的を達成することは出来た。
出来たはいいが、肝心のカナちゃんがいなくなってしまった。

面接を終え、部屋の中に置き去りにしたカナちゃんが気になって帰りにカナちゃんが好きなお菓子を手土産に帰った時のこと。
鍵のかかっていない扉。
薄暗い室内。
不自然に開いたリビングの扉。
そこにいたはずのカナちゃんは、跡形もなく消えていた。
全力で街中を探したがカナちゃんは見つからず、まさか誘拐されたんじゃないかと気が気ではなかったが、もしかしたらと僕は店に来ていた。
エプロンを貰って着てみたはいいが、肝心のカナちゃんの姿はない。
その代わり、やけにキャンキャンとうるさいバイトがいた。


「おい眼鏡、初日早々サボってんじゃねーよ!」

「サボってないよ。僕はその場にいるだけで空気を清浄する機能があるからね、こうやって座ってるだけでも身の回りが綺麗になっていくんだ」

「へぇ、すごいですね!」

「嘘に決まってんだろ、バーカ!騙されてんじゃねえよ!」


きゃいんきゃいんうるさいのが四川阿奈、終始薄ら笑い浮かべてる腹黒そうなのが笹山透。
だと言うらしい、さっき聞いた。
正直興味ないが、やけに目立つ二人組なので覚えてしまった。
取り敢えず、仕事に慣れるためこの二人と一緒に店内の清掃をしろと言われていたのだが、めんどくさい。やる気でない。カナちゃんが足りない。どこにいるの、カナちゃん。お馬鹿だからすぐ迷子になってるかもしれない。
知らない街で泣いてるカナちゃんのことを考えたらいても立ってもいられなくなる。まあ、ちょっと勃ったけど。


「はぁ」


なんて、杖代わりに立てたモップに顎を載せ、深い溜息を吐いた時だった。


「や、調子はどう?」


耳障りのいい、爽やかな声。
出た、あの男だ。
ずり下がる眼鏡を持ち上げ、姿勢を正せばそこには紀平辰夫がいた。
あの夜、居酒屋で僕のカナちゃんに馴れ馴れしく触った上カナちゃんの足に、足に。
思い出したら血管を流れる血が煮え滾りそうになり、僕は必死に堪える。
並べば無駄にでかいわチャラいわで正直滅茶苦茶苦手なタイプだ。
第一僕は喧嘩が苦手なのだ。
まるで勝てる気がしない。
今すぐ殴りかかりたいところだが、大人しく今は筋トレから始めようと思う。


「紀平さん、まじこいつ使えねふがっ!!」


余計なことを言い出す前に僕は雑巾を四川の顔に投げ付けた。


「良い感じです。ちょっとこのバイトの方が先程からちょっかい掛けてきて仕事がしにくいんですけどね」

「あららーダメじゃん四川、いくら遊んで欲しいからって」

「こ、この野郎…!」


ビキビキっと青筋を浮かべる四川阿奈。
見兼ねた笹山が「阿奈、どうどう」と四川の肩を叩けば、「俺は動物じゃねえ!」と更に四川は吠えた。
僕は聞こえないふりをする。

mokuji
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