ただいまは言いません

「じゃあ、結局バイト辞めないんだ」

「あれは、あいつが勝手に言っただけなんだって」


翌日。
一晩も眠れば全身の気怠さは抜け落ち、なんとか復活した俺は司と一緒にマンションを出た。
翔太のマンションにはよく遊びに行ってて近場も目新しくは感じるものはないのだが、隣にいるのが司だからだろうか。
周りの風景がどれも新鮮だった。

隣を歩いていた司だったが、俺の言葉が気になったらしい。
目線だけをこちらに向け、「あいつって?」と尋ねてくる。


「んーなんつーか、友達のような、保護者のような…」

「恋人?」

「んなわけないだろ!…第一あいつ、二次元以外興味ねーし」


そう答える自分の声は思ってたより低くなってしまい、まるで拗ねてるみたいで自分で恥ずかしくなった。


「つか、それ以前に俺もあいつも男だし」

「俺も男だけど」


恥ずかしさを紛らすために咄嗟に付け足した時だった。
何気なくそう答えるやつに、「え」とつられて俺は司を見上げた。
それは、どういう意味ですか。


「ま、辞めなくてよかったな」


駅前通り、裏路地。
飲み屋が並ぶ一角にある階段の前まで歩いていく司はそのまま段を降りていく。
そして、足を止める俺を見た。


「ついたよ、原田さん」


促され、はっとした俺は「ん、あぁ」となんとも歯切れの悪い返事をしながらも慌ててその後を追いかけた。

然程馴染み深い場所ではないのに、酷く懐かしく感じるのはなぜだろうか。
不思議だ。

mokuji
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