鍵は捨てるためのもの



休憩という名の司の高尚な嗜みの相手をさせられ、俺は今が朝か昼か夜かもわからないようになっていた。
最中、半分脳死んでいたので詳しいことは割愛する。
というかトラウマになりかねない。


「も、司嫌い…」

「原田さんが誘ってきたじゃん」

「そうだけど、そうだけど、人には限度ってのが…」


ベッドの上。
先ほどまでケツに突っ込まれてた玩具が視界に入り、なんだかもう泣きそうになりながら抗議をすれば、ベッドに近寄ってきた司は何かを俺の傍に置く。


「はい、これ。服」

「あ、ありがと…」


ここまで来るのにどんだけ回り道をしたのだろうか。
ようやくこの布切れと化したウエイトレス服とおさらばできる。
そう安堵しながら服を受け取ろうと腕を動かした時だ。
ジャラリ、と音を立て手首が締め付けられる。


「ん?ん?!」


もしや、まさか、この展開は。
ガチャガチャと激しく手錠を引っ張り、千切ろうとするが…無理だった。よく漫画とかならぶちーっていくのに。あ、そういや俺マッチョキャラじゃない。


「司、これ、外れない。どうしよう」


最後の頼り、司に縋る。
それに応えるよう、俺の背後に腰を下ろした司。
手首を優しく掴まれ、司は手錠を調べ始めた。


「鍵つきみたいだな。原田さん、鍵は?」

「わかんない。多分、あいつが」


あいつもとい翔太の糞野郎の顔が浮かぶ。
思い切って逃げ出してきたが、頭を冷やした今はちょっと翔太が心配になってきた。
怒ってるか、心配してるかもしれない。
アホみたいに気持ち悪いやつだけど、たまに優し…くはなかったな。散々な目に遭わされた記憶しかない。


「わかった。ちょっと待ってて」


翔太のことを思い出し、感傷的になっていると、不意に司がベッドを降り、再度部屋を出ていく。
そして暫くも経たない内に司は戻ってきた。
ペンチを握って。


「なんでお前そんなモノ」

「俺もよく手錠の鍵捨てるから、念のため買っておいた」


そして、さらっと問題発言。
捨てるのか?自発的に捨てるのか?
理解不能な司に冷や汗が出る。


「原田さん、背中こっち向けて」


そんな俺に気付いているのかいないのか、相変わらず読めない司に命じられるがまま俺は後ろ手を司に向けるよう軽く腰を持ち上げる。


「…ん」

「…誘ってんの?」

「ちっ、ちげーから!早く切れよ!」


何を言い出すんだ、こんな時に!
というかまだやるつもりなのか!
自分の格好に恥ずかしくなって慌てて座り直してみる。
が、司はじっとこちらを見たままなにも言わない。
まさか、こいつ。


「お…お願いします、外して下さい…」


そう渋々呟けば、「わかった」とペンチを握り直した司は再度俺の手首を掴む。
これだから躾に厳しいサディストは嫌なんだ。

mokuji
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