名探偵紀平〜寝取られ眼鏡と揺れる睫毛〜

数分後。
事務室から中谷翔太の履歴書をとってきた笹山は再度店長たちが待っているはずの休憩室へと戻ってきた。


「すみません、遅くなりました」


言いながら扉を開いた笹山。
それを出迎えたのは正座の店長とその前で仁王立ちになった紀平だった。


「ああ、早かったね」

「はい。…あ、こちらになります」


笹山から履歴書を受け取った紀平はそのまま文面に目を走らせた。
派手な赤い頭髪に黒縁の眼鏡。
浮かべた微笑みがどことなく胡散臭い青年の証明写真。
どっかで見たことある顔だな。
思いながら、連絡先の項目を見付ける紀平のその横。
正座を崩し、にゅっと紀平の脇から顔を出した店長は履歴書を眺める。
そして、あることに気が付きた。


「おい、紀平。この住所って、原田と同じじゃないか」

「住所?」


携帯電話を取り出し、中谷翔太の電話番号を入力する真っ最中だった紀平は横から口を挟んでくる店長の言葉に目を細める。
つられて住所の項目に目を向ければ、然程ここから離れていない住所がかかれていた。



「間違いない。ここは今日俺が行ったマンションだ。号室も同じだ」

「今思い出しますか、今」

「仕方ないだろう、よく見てなかったんだよ」

「どうなんすか、それって」

「…でも、それなら中谷さんと原田さんが同棲してるってことですか?」

「…ま、そういうことになるだろうねぇ」


驚きと困惑を隠せない笹山の問に、紀平は考えながら答える。
明らかにノーマルな原田の性格を考える限り、同級生の友達かなにかだろう。
そこまで考えて、紀平は閃く。


「もしかして、さっきの電話」

「何だ、電話って」

「司君が取った原田さんからの電話ですよ。バイト辞めるっていう」

「ああ…なんだ、あれがどうした」


そう、紀平に聞き返す店長だったがどうやら紀平が言いたいことに気がついたようだ。
はっと目を見開く。
小さく、ふるりと睫毛が揺れた。


「まさか、原田はこいつに…」

「さぁ、どうなんでしょうね。あくまで勘なんでなんとも言えませんけど」


言いながら携帯を操作し、即座にアドレス帳を開いた紀平はすぐに『時川司』に電話をかける。
その電話に目的の人物が出るのには差程時間はかからなかった。

mokuji
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