知らない人から物を貰うべからず 「うっわぁ、いつもに増してテンションたっけえっすね」 「面接、終わったんですか」 「ん、あぁ、まあな」 「それで?どうしたんですか?」 「採用だ」 涼しい顔をして冷蔵庫まで歩いていく店長を目で追い、「へぇ」と呟いた紀平はとある事に気づいた。 「店長、ストップ。ストーップ」 「なんだ、俺は喉が渇いてるんだぞ。用件なら三十文字以内に述べろ」 「いや、店長、なんかケツからはみ出てんだけど」 呆れたように顔をしかめ、笑みを引き攣らせる紀平にハッとする店長は慌てて自分の尻を手で隠す。 しかし、一歩遅かった。 紀平からのアイコンタクトを受け取り、動いた笹山は店長の後ろポケットからがっつり覗いていた封筒を引き抜いた。 「ああ!何をする貴様!カツアゲか、ちょっと背がでかいからっていい気になりやがって!」 「紀平さん」 キャンキャン吠える店長を無視し、封筒を紀平に手渡す笹山。 厚みのあるそれを受け取った紀平は既に開けられている封筒の中を覗いた。 そこには束になった札がいっぱいいっぱい詰め込まれていた。 そして、明らかに黒いものしか感じないそれを見た紀平はにっこりと柔らかい笑みを浮かべる。 「なにこれ」 「…臨時収入だ」 「なにこれ」 「…軍資金」 「店長いま俺達が何も言わなかったら思いっきり自分の懐に収めるつもりだったでしょう 」 「だって、好きなように使っていいですって言われたんだから俺がどう使おうと俺の勝手だろ!」 「だってじゃないでしょう、だってじゃ」 責めるような二人の冷めた目に耐え切れず慌てて反論する店長に紀平は深い溜息をつく。 「取り敢えず、これ、誰にもらったんですか」 「…さっき、面接に来たやつ」 「面接って、あの眼鏡の人ですか」 「あぁ、中谷と言ったな」 「採用にしたんなら履歴書あるんですよね?今すぐ出してください」 「確かにあるが、まさかお前素直に返すつもりじゃないだろうな」 「決まってるじゃないですか。こんな明らかに怪しいもの受け取るのは店長ぐらいしかいませんよ」 きっぱりと言い切る紀平に「でも」と口籠った時、「透」と紀平は言葉を遮った。 「悪いけど、ちょっと事務室の方見てきてくんないかな」 俺はちょっと手が離せないから。 そう爽やかに笑う紀平に、店長は青ざめる。 紀平の逆鱗に触れたくなくて、「わかりました」と一礼した笹山は慌てて休憩室を後にした。 |