見た目はクールで中身は暑苦しいあの人 「あれ、透に言ってなかったっけ」 「初耳ですよ」 脳天気な紀平の言葉にわずかに眉を寄せた笹山は、「ちゃんと、話して下さい」と促す。 詰るようなその視線に苦笑した紀平。 「別に、改まって話すようなことでもないよ。さっき、かなたんから電話がかかってきたみたいでさ、バイト辞めるんだって」 「原田さんが」 「そーそー」 「…」 「あれ、何その反応。透顔怖いよ。あんまこっち見ないで」 「紀平さんよりマシです」 「はは、かわいくなーい」 残りのアイスを舌で器用に口の中に放り込んだ紀平はガリガリとそれを噛み砕く。 そして、険しい顔をした紀平は「あ、きーんってなった」と唸った。笹山は無視した。 「でもさ、なんか様子がおかしかったみたいでさ。辞めるって言伝したの、かなたんじゃなくて別の男だったって」 バーを裏返し、当たりの文字を探す紀平はまっさらなそれに小さく息を吐き、そのままアイスバーに占領されてる灰皿に載せる。 そんな紀平の口から出た言葉に笹山は目を丸くした。 「男?」 「うん、男。俺もよくしんないから何とも言えないけどね」 「原田さんって、恋人いたんですか」 「うん、まぁそこで恋人に飛ぶあたり透も結構毒されてきてるよね、ここに」 「……男ですか」 「あれ、なに、マジ凹み?」 テーブルの上、項垂れる笹山を眺めながら七本目のバーアイスを取り出そうと紀平が立ち上がった時だった。 「なんだ笹山、お前まさか青春真っ盛りか」 「「…店長」」 「なんだその嫌そうな目は!もっと喜べ!涎を垂らせ!床を這いずって俺を讃えろ!」 「1ページ前まで俺の登場を待ち侘びてたくせになんだこの有様は!」とメタ発言するホスト崩れの優男もとい店長は休憩室に足を踏み入れた。 室内の温度が一度上がった。 |