ベッドの上のマグロ

「いや、あの、今のは……っ」


言ってから自分が口にした言葉の重大さに気づいた俺は慌てて訂正をしようとする。
が、遅かったらしい。


「……へぇ」


どこを見ているのかわからない、黒い眼。
それはじっと俺を見据え、そしてわずかに細められたような気がした。


「素直な人は嫌いじゃないよ」


ペロリと指先に絡みつく精液を舐め取った司はなんでもないように呟く。
その動作にまでゾクリと背筋が震え、濡れた指がどこに伸びるのかを考えただけで体が熱くなった。
末期症状。


「つか、さ」

「なに」

「ごめん、まじ、今のやっぱな…」

「無理」


即答だった。
言い終わる前に断言する司に肩を掴まれ、そのまま強引に体を引っ張られる。


「ちょ、え、なにっ」


どんどん歩いていく司。
どこへ向かっているのかわからず、目を丸くして背後の司を振り返ろうとした時、開いた目の前の手平に押し込められた。
薄暗い室内。
いい匂いがする。

じゃ、なくて!


「っぶわ、っぷ」


ただでさえ腕が効かず、おぼつかない足元は薄暗い視界のおかげもあって何かに躓き、そのまま俺は転倒する。
そして、何かに顔面から突っ込んだ。
柔らかすぎず、硬過ぎないそれはベッドのようだった。


「はしゃぎすぎ、マゾ田さん」

「マゾ田さんはやめ、」


ろよ、と文句つけながら慌てて起き上がろうと腰を持ち上げた時、ベッドのスプリングがわずかに軋んだ。
背後には、司の気配。

ここは寝室で、俺は女装。
おまけに腕には手錠が掛かっていて、服もまともな形をしていない。
逃げ場のないこの情況、考えれば考えるほ自分が絶望的な情況にいるとわかったが、それ以上に胸の鼓動は激しさを増すばかりで。
コスプレってすごいな、と俺はすべての思考回路の歪みの原因をコスプレに押し付けることにした。


「じゃ、合意ってことで」


いただきます、と司の淡々とした声が薄暗い室内に響いた。


mokuji
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