面接結果

「言った通り今日からお前もこの店の一員だ。給料相応の働きを見せろよ」

「あっ、あの……もう、終わりですか?」

「もう?なんだ貴様、これ以上やってもらいたかったのか?」


あまりにも呆気ない、というか勃起し始めた矢先に引き抜かれぽかんとする俺に店長はにやりと笑う。
まさか、冗談じゃない。
慌てて首を横に振り否定すれば店長は「強情だな」と口角を持ち上げ、微笑んだ。


「残念ながら俺も暇ではないと言っただろう、データは充分取れた。……そうだな、今日からのバイトのことは紀平という男に聞け。恐らく休憩室にいるだろうが、休憩室はわかるか?ここの扉を出て通路を真っ直ぐ行けば休憩室と書かれた扉がある。そこだ」


矢継ぎ早にそう淡々とした口調で続ける店長はティッシュの箱から数枚ティッシュを引き抜き未だ状況を飲み込めていない俺の代わりに慣れた手つきで後処理を済ませてくれる。

……優しい。
いや、違うこんなことされて優しいも糞もないだろう血迷うな俺。
テキパキと服を着せてくれる店長にすっかり萎えた俺はされるがままになりつつ戸惑いながら目の前の男を見上げた。


「ちょ、あの、店長……」

「なんだ、そんな物欲しそうな顔をして」


俺のズボンを上げた店長はそこでなにか思い出したようだ。


「…ああ、財布だったな」


違う。
違くはないが違う。


「約束通りそれはくれてやる。ついでにその試作品もやろう。プレゼントだ」


最後に自分の指を拭った店長はびしっと転がるローション濡れしたディルドを指さす。
そして「それが根本まで入るまで毎晩しっかり解しとけ」と冗談か本気かわからないセクハラをかましてくる店長に「いりませんからっ!」と顔を赤くし声を張り上げれば店長は楽しそうに笑い、こちらに向き直った。


「そう言えば名乗り遅れたな。俺はこの店の店長をやっている井上だ。これからよろしくな、原田佳那汰」


アダルトショップ『intense』のホスト店長・井上は静かに笑みを浮かべる。


というわけで、今日からはこのアダルトショップで働くことになった。
その自分の選択肢が正しいのか間違っているのかはわからないが、ただ言えることは一筋縄にはいかないだろうということだ。
だけど、ニートから脱却出来ただけでもよかった。
今だけは素直に喜びに浸ることにした。

店長が部屋を出ていき、一人残された俺は恐る恐る机の上に残された財布に手を伸ばす。
ずっしりとした重量。
溢れ出す高級感。
これは、もしかしたらウン十万くらいは入っちゃったりしてるんじゃないだろうか。
固唾を飲んだ俺はあまり指紋がつかないようにそっと財布を開き、そして、硬直する。
そこには敷き詰められた分厚い札束…ではなく、大量の領収書たち。

だ、だ、だ、騙された……っ!

札どころか小銭一銭も入っていないそれに絶望する俺の元、残されたのは無駄に高そうな財布と使用済みディルドだけだった(ちなみに後日この財布を質屋に持っていったらパチもんだった。絶対あの変態睫毛泣かす)。

-END-



mokuji
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