好意と下心の違い

落ち着け、とりあえず落ち着け。
口から息を吸い、肩の力を抜く。
そしたら、次はゆっくりと周りを見渡し自分が置かれたこの状況を把握しよう。

ここは元親友だった中谷翔太のマンションであり、俺はバイト辞めて自分専属の召し使いになれと言い出した翔太に翔太オリジナルの悪趣味極まりないウエイトレスの格好をさせられている。
しかも半ケツ状態で手首は縛られていて、まあ、いつどこで通報されてもおかしくはない。
そしてここはエレベーター。
向かい合うような形で佇む司の恐ろしいほど反応がないその無表情に立ちすくんだ俺は戦慄する。

結論、やばい。


「あ、え…あの…」


どうせなら冗談だと笑い飛ばして開き直った方がネタで済むとわかっていたが、冷めた目をした司を前にしたら思うように体が動かなくて顔から火が噴きそうになる。
声は上擦り、周りの空気が何度か下がったような気がしないでもない。


「なんで、ここに」

「ここの八階、俺の部屋」

「へ、へー…」


随分といいところに住んでますねとかそんな言葉がでなくて、冷や汗をだらだら流しながら俺はとあることに気付く。
ということはこれ八階にいくのか、このまま。
ボタンを押して途中下車を試みるもやはり無理があったらしく、壁に腕を擦り付けていた俺は司の視線に気付きハッとした。


「俺からも質問いい?」

「…はい」

「原田さん、なにやってんの」


二回目ですよ、司さん。その質問。
え、わかってますか。そうですか。


「え、う、あの、これは、その…」


顔が熱くなって、なんかもう恥ずかしすぎて死にそうになった。
口ごもる俺の顔を覗き込んでくる司に「趣味?」と尋ねられ、慌てて首を横に振れば何気なく視線をこちらに向けた司は呟く。


「可愛いよ。似合ってる」


え?

さらりとなんでもないようにやつの口からでたその言葉に俺の思考回路は停止する。
まさかそんなこと言われるとは思ってなくて、いや翔太には誉められたけど(あいつの場合自分が作った服を誉めていただけだろうが。自画自賛)、司みたいなやつに誉められるのとはやっぱり違って、というか思いっきりバカにされた方がましってどういうことだ。
絶句して固まっていると、不意に機内が小さく揺れる。
どうやらもう目的地である八階に着いたようだ。
ゆっくりと扉が開いた。


「こっから俺の部屋近いけど、あれなら服貸そうか」


そんな格好じゃ通報されるだろ。
そう続ける司はエレベーターを降り、機内の隅で固まる俺に目を向ける。
相変わらず何を考えているのかわからない涼しい顔をした司の言葉に迷ったが、確かにこのまま人前に出て変態デビューするのは困ると再確認した俺は悩んだ末司の後を追うようにエレベーターの機内を後にした。

mokuji
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