お奨めの就職先・お嫁さん

「……カナちゃん、もうバイト行っちゃだめだよ」

「は?なんでだよ」

「わざわざ稼ぎに出なくてもお小遣いなら僕があげるし欲しいものなら僕が買ってあげる。それでいいじゃん。なにが不服なの?」


不思議そうに尋ねてくる翔太に俺は思わず目を逸らした。
目が笑ってない。
本気で不思議なのだろう。
昔から翔太はどこか世間とずれていた。
不自由のない生活をしてきたのだからそれも無理がないだろう。
でも、残念ながら俺は違う。


「そうやって、いつまでもお前に頼らなきゃいけないのが嫌なんだよ。俺は」

「どうして?もしかしてカナちゃんってば僕に引目感じてるの?気にする必要ないよ、僕が言ってるんだから」

「俺が嫌なんだって」

「どうして?」


レンズ越し。
翔太の目が僅かに細くなった。
低い声に思わず後退り。
しかし腕を縛られ、首輪をつけられた今上手く後退できない。


「カナちゃんは僕と一緒にいるのが嫌なの?」


鎖を撫でていた翔太の指先が顎に触れ、そのまま頬の輪郭をなぞられた。
嫌な触り方にひくり、と喉が鳴る。


「嫌ってわけじゃないけど、だから…お前に一方的にされるのはやなんだって」


指先から逃げるように顔を逸らせば、翔太の手はすっと離れる。
つられて翔太を見上げれば、目の前にはいつもと変わらない柔らかい笑顔。


「ならそうだね、こうしよう。カナちゃんは一生僕の側にいて僕の世話をしてよ」


それならいいでしょ?と無邪気に笑う翔太はジョークで言ってるつもりはないようで。
そのプロポーズ染みた発言に呆気取られていると、なにか取り出した翔太はそれを俺の目の前に翳した。
俺の携帯電話だ。
その画面には店の電話番号が。


「お前、なに勝手に」

「ほら、早く電話しなよ。『新しい勤め先見付けたんで辞めます』って」


笑顔のまま通話ボタンを押す翔太はそのまま携帯電話を俺の耳に押し当てた。
静まり返った室内にプルルルル、とコールが響く。
それが途切れるのにさほど時間は掛からなかった。


『[intense]でございます』


受話器から聞こえてくる冷ややかで淡々とした声。
司だ。

mokuji
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