ここから先は関係者以外立ち入り禁止です

「阿奈のせい」

「いや笹山だろ」

「絶対俺もかもだけど、7割りは阿奈のせいでしょ。絶対」

「は？人が突っ込んでるとき割り込んできた早漏野郎は黙ってろ」

「あ？」


「仕事するときぐらい黙ってやれないのか貴様らは！！」


新商品からメジャーなものまで用途別に商品が敷き詰められた棚の前。
先程から仲良く並んで段ボールから商品を取り出し陳列していると思いきや掴み合いを始めるアルバイト二人にはもう頭が痛くなる。


「店長、だってもう結構経ちますのにあれから原田さんが一度も顔出さないんですよ」

「わかってる」

「やっぱり笹山が二輪したせいで辞めたんだろ」


唇を尖らせ笹山を責め立てる四川に小学生かと突っ込みたくなりつつ「勝手に辞めさせるな」とだけ答える。

新しいバイトを雇って数日。
歓迎会をしたあの夜からやつは音沙汰がなくなった。
あの日、原田佳那汰は入ってきた客と居合わせた途端居酒屋の個室から逃げ出した。
慌てて追い掛けようとしたが既に外に人影はなくて。
一つだけ気になったことがあるとしたらあの個室にやってきた赤髪の青年だろうか。
あの青年と原田は知り合いのようだった。
そしてその青年は原田を追いかけて居酒屋を飛び出した。

確かにまあ紀平のバカに襲われかけてるのを知り合いに見られたら舌噛みきりたくなるのもわかるが、なんとなくそういうものじゃない違うものを感じた。
言い例えるのなら、羞恥ではなく恐怖。

まあ、連絡がとれない今ぐちゃぐちゃ考えたところで手の出しようがない。
それに、今は目の前に積まれた仕事を終わらせるのが優先だ。


「二、三日サボったからってなんだ。紀平は一ヶ月無断欠勤したぞ」

「それでクビにしない店長も店長ですけどね」

「ムカつくが、あいつ目当ての客は多いんだよ。おまけに羽振りもいい」

「じゃ、原田は即クビだな」


「あいつ、まともに接客も出来てねーしな」とせせら笑う四川にふんと鼻を鳴らし、「それはないな」と言いきる。


「んぁ？なんでだよ」

「あいつの席があるといつもサボってるアルバイトが毎日来る」


そう笑えば、商品を並べていた笹山はくすくすとつられて微笑み、きょとんとしていた四川だったがなんのことかわかったようだ。
みるみる内に顔を赤くし、「てめーと一緒にすんじゃねえこの糞睫毛」と声を上げる四川に段ボールを押し付け物が飛んでくる前に颯爽とこの場を去ることにした。
これだからキレやすい若者は。


それにしても、やはりこのまま音信不通なのも後味が悪い。
電話も出ないし、残すところはあれだけか。
店内を後にし、履歴書どこに片付けたっけと考えながら俺は事務室へと向かった。


愛しいあの子は傷物中古