なにか、ゆめを見ていた気がする。
 あたたかい水のゆめを。



 乳白の靄のなかにいるような。
 半ばねむり、半ば、覚めている。
 まぼろしのような影をみた。
……掴める筈もない。

 夢幻とうつつが取り留めもなくまざりあう。
 肩肘を突いたまま、いつの間にか微睡んでいた。
 寝起きの頭でぼうっと耽る夢想は、酔客が視るぐにゃぐにゃの大地に似ている。
 そぞろ歩きをするのには、あまり向かない。

 水。
 夢の滓だ。
 かんばせのおうとつを伝ってゆく。
 そのまま、どこかへ流れ落ちて消えた。
 温度だけがさいごに残る。
……水の名残りは、あたたかかった。
 あのような温度のなかに、ずっと沈んでいたいと思う。
──眠たい。
 夢の靄に手を伸ばし、引き寄せ、頬ずりした。
 あの水と同じあたたかさ。
 腕の中に納まるほどの大きさしかない。
──あぁ……。
 沈んでいたい。
 望めば、ゆるされるような気がする。
……しかし、おそらく。
 それすらきっと、

──どこかで、ぷうっとちいさな笛が鳴る。
──音は、けものあつめの角ぶえの、かすれた高い音色のような。
──ちいさく未熟な仔うさぎが、あまえて親を呼ぶような……。

 うつつの夜闇に引き戻される。
 幾らかまばたき、まどろみの混濁から覚めたころあい。また、ぷうっと笛音が──おさなげな寝息が──聴こえた。
 綿に敷かれた布のうえ、立てた肘へはなにかがごつりとぶつかって、そのままぐりぐり押してくる。
……見下ろせば。寝相よろしくぐねぐね動く、ちいさな頭部のまるっこさ……。
 またかと思う暇もない。
 ころころと、転がりながらのごくごくみじかい進軍。電光石火の劫掠。
 寝息おだやかなまま、石頭の侵略者は当然のようにこちらのまくらを占拠した。

「…………」

 もともとあちらの領分だったまくらの方は、これもしっかりちいさな両手が握りこんでいる。
 またか……。
 あきれながら息を吐く。
 きょうはまだ、かかとのつぶてが降らないだけ、ましではあるが──夢中のうち、この娘はどうにもこうにも同衾者を踏み竹あたりと混同しているきらいがあった──、しかし、なぜ、自分のまくらはそこにあるのにひとのものまで奪うのか……。
 理不尽なことだ。



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