つるりとした、銀色の機体。作業アームが差し出した珈琲を、無言で啜った。
日々監視する液晶には、不定期に変化する波長。 ……一人きりの研究室だ。他にあるのはADと計器のみ。
……波打つ波動を見逃すまいと眺めていれば、電子音が来客を告げた。
「………どいつだ」
『旦那様です』
アンドロイドの平坦な声に、舌打ちする。……またも乗り込んで来やがったか。
「……追い返せ」
『不可能です。マスターキーをお持ちです。警護システムを解除しました。』
苛立ち紛れにマグを飲み干す。唇の端を火傷した。
……背後で、空気の圧縮される音。
「……またおまえ、ろくでもない格好をしているな」
硬い靴音と、低い声。
「半袖なんて……今は真冬だぞ」
……忌々しい思いで計器から目を離し、後ろを振り返る。
毛織の外套と、冬色のスーツ。空調の効いた部屋では暑苦しいばかりの装束。……革靴は、嫌味に光る。
「……何をしに来た」
篭る限りの敵意を向けて、声を尖らせる。気にもせず、相手はからからと笑った。
「……愚かで無精な連れ合いの、世話を焼きに」
「結構だ、アンドロイドがいる」
「小言の言えない機械では……おまえのそのどうしようもない隈も、顔色も……治らんだろう」
造作もなく言い返す、低い音。
……しゅ、と。
男の背後で、自動扉が閉まる。
……その言い分は無視して、口を開いた。
「……マスターキーを渡した覚えはないが」
「……おまえ、絶対に合鍵をくれないから……作った」
「申請なしでコピーを?」
「……背に腹は代えられない」
「……くそったれが、違法だぞ」
吐き捨て、計器に向き直った。……波長は相変わらず、静かに揺れている。
背後で溜息が聞こえたが、やはり無視する。
「………なあ」
……靴音が、近くなる。
薄着で曝けた首筋に、厚手の手袋が触れた。重たい外着の裾が、ふくらはぎに当たる。……吐息は、耳元に。
「……いつまで続ける気だ」
馬鹿げた質問だ。……そんなの、決まっている。
「かえれるまでだ」
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