まあるい、黒檀の虹彩。……薄開いた視線の先、濡れた濃色がみえた。
「……ぺ、る…」
乾いた唇が、重たい。声はがらがらと掠れる。
それでも、彼は……確かに頷き、目を潤ませた。
あたたかい手のひらが、右手をぎゅっと握る。
「……良かった………」
……そのひくい声もまた、掠れていた。
いつも、ぴっちりとしていて……終ぞ綻びのなかった、あの首元のタイ。けれど、いまこの時……それらは、よれよれに萎れている。
「おいて、いか、れ…ると……おもった……おれ、ひとりで……」
白い鼻梁は、すっかり表皮が赤くなり……何度も、鼻声を啜る。……音は震えて、泣きじゃくった子供のように。
……そうだった。
ほんとうの彼は、うんと寂しがりで、臆病の……どうにもならない、甘えただったのだ。
「……あのね………」
みんなに、会ったんだ。
そう、ささめいて。重たい手のひらで、涙に濡れた頬へと触れる。
……くしゃりと、白皙がゆがんだ。
「……もどってきて、くれたのか、」
視界が、滲む。
……あたたかい、海の底の温度。
「やっとわかったんだ。かえることより、たしかめることより……ずっと………」
ずっと。
おまえと、ふたりで、生きることのほうが……たいせつだったんだ。
堪えかねたふうに伸びた腕に、身体を包まれる。こたえるまま、震える手で……彼の首へ、指を伸ばす。
そうして、ようやく抱き合った。
「……ペル…」
ごめんな、ごめん、ありがとう、だいすきだ。
嗚咽で言葉がめちゃくちゃなのは、私も同じだった。
……ただ、ただ……互いの存在が。確かに、この腕のなかへあるのが……どうしようもなくほっとして、うれしくて。……いとおしくて。
ふたりで、わあわあ泣いた。
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